冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
病院は汐留の近くにあった。
道中の車で、豊さん曰く「昔、具合の悪い母を連れてきたことがある」とのこと。
私が出会った頃には、笛吹社長夫人は鬼籍に入られていた。お母さんが闘病中の話なのだろう。それを咄嗟に思い出してくれたようだ。

病院に到着するとすぐに看護師さんが様子を見てくれ、未来の病状に緊急性はないと判断されたようだ。順番で呼ぶと説明された。危険な容態なら、このトリアージで優先される。緊急性がないとわかっただけホッとした。
四十分ほど待合室で待つ間、力なく泣く未来をあやし続けた。

「俺も代わる。明日海は少し座っていろ」
「でも」
「いいから頼れ。きみはもっと頼っていい」

そう言って、少し強引に未来を抱っこする。未来は熱の中でも豊さんがわかるようで、胸に頬を寄せてすんすん泣いている。
やがて呼ばれた診察室。未来は怖がって泣いたけれど、喉と鼻の検査をされ、念のためと採血もされた。結果はすぐに出た。
溶連菌感染だと言う。

「喉が真っ赤ですね。扁桃腺もかなり腫れています」

医師は穏やかに説明してくれる。私は思い出した疑問を口にする。

「ミルクも麦茶も飲んでくれなかったのは、喉が痛かったからですか?」
「そうですね。少しずつでも飲んでくれればいいんですが、痛くて拒否しちゃったんでしょう。まだ言葉がわからないから、そういうことも伝わらないですからねえ」
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