冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
その後、会計を済ませ薬を一日分だけもらい帰路についた。
未来はぐずぐずしていたけれど、車の揺れですぐに眠ってしまった。

「溶連菌……、もっと早く気づいてあげられたらよかった」

ぼそりと呟く私に豊さんが言う。

「言葉が喋れない相手だ。わからなくても仕方ないさ」
「でも、私は母親なのに」
「よくやっているじゃないか。きみはもっと周りに頼っていい。そして、自分を許してやっていい」

豊さんは車を走らせながら言う。後部座席の私からは彼の表情が見えない。
優しく響く彼の声に心が揺さぶられてしまう。

「自分で決めて産んだ子なのに、ちゃんと母親ができていないようで歯がゆいんです」
「きみは自分ひとりで母親をやっているつもりだろうが、残念ながら今は俺とも家族だ。三人家族なんだ」

豊さんは言葉を切り、それから言った。

「俺は未来の父親だ。きみの責任を半分受け持つ理由がある」

この人はどんな気持ちで父親だと言ってくれているのだろう。家族だと言ってくれているのだろう。
もしかすると豊さんは私が想像するよりずっと多くのことを察し、心に秘めているのかもしれない。私がそれに言及すれば、この状況に変化は起こるだろうか。

「豊さん、ありがとうございます」

私は静かに答えた。

「でも、そこまで責任を感じていただかなくてもいいんです。……形ばかりの家族ですから」

こんなことを言っては彼を傷つけると思った。だけど、線を引いておかなければとも思うのだ。

「そうかもしれないな」

豊さんの表情は相変わらず見えなかった。


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