冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
そう答えたら、くらりと眩暈がした。テーブルに手をついて転倒を避けようとする前に、豊さんが私の身体を抱きとめた。

「すみません!」

慌てて離れようとするも、彼が軽々と私を抱き上げる。
一瞬にしてあの日がフラッシュバッグした。ベッドの前で立ちすくんだ私を彼はこうして抱き上げたのだ。あの日香ったムスクは、もう彼からは香らない。

「豊さん、大丈夫です」
「体調不良の妻に無体は働かない。運ぶだけだから、じっとしていろ」

すぐそこの和室まで私を運ぶと、布団に下ろしてくれる。ペットボトルや携帯を枕元に整理し、掛布団を私の上にかけなおしてぽんとお腹の部分をたたいた。

「いい子にしていろ」
「子どもじゃないんですよ」
「放っておくと無茶をするから、未来と同じように扱うと決めた」

そう無表情で言うのに、口調も視線も優しく感じられる。恥ずかしくて、面映ゆくて、思わず目をそらしてしまった。
豊さんが私の額に手を当てる。

「熱がある。こうして額に手を当てて熱を測っても、俺は長年本当に熱があるかわからなかった。今回未来が熱を出して実感を持ってわかったよ。熱があると額や首筋は触ってわかるくらい熱くなるんだな」

額から私の首筋までを撫で、豊さんはしみじみと言う。その触り方はいたわるようなものだけれど、私は心臓の鼓動が激しくなっていくのを感じた。

駄目。思い出させないで。あなたに恋をしていた時代を。
同居して、私と未来を大事にしてくれるあなたに揺れているのに、これ以上優しくしないで。
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