冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
「だ、いじょうぶですよ、私」

口では言いながら、彼に触れられているのが心地よい。私の中の心細さが、彼の優しさに寄りかかりたくなっている。これは危険だ。

「豊さん、どうしてここまで気遣ってくれるんですか」

思わず口をついて出た。聞いては駄目だと思いながら、こぼれてしまった。

「私は……望を見つけるための人質のようなものでしょう」

豊さんは私を見下ろし、暫時黙った。それから、ふっと唇の端を引く。

「人質には元気でいてもらわなければ価値がないからな」

うそぶく言葉に私は顔をゆがめた。泣きそうな顔をしてしまってはいけない。彼に気持ちが透けてしまう。
すると豊さんの顔が近づいてきた。拒否する間もない。
唇が重なった。
二年ぶりのキスだった。

軽く重なって離れた唇を見つめ、私は言葉に窮した。
豊さんは自嘲気味に微笑む。

「少し卑怯だったな。弱っているきみに。……もう、何もしないから眠ってくれ」

柔らかく私の頬を撫で、豊さんは立ち上がる。そっと和室の戸がしまるのを私は呆然と見ていた。

キスをしてしまった。豊さんと。
彼は、私をどう思っているのだろう。どうして私を、妻にしたのだろう。


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