冷徹御曹司は過保護な独占欲で、ママと愛娘を甘やかす
6.すれ違いと真実
九月も末、私たちが同居を始めて二ヶ月近くが経つ。
朝のリビングでは、未来がジャングルジムで遊んでいる。未来は早起きだ。私は未来と自分の朝食の仕度をしながら、豊さんの分のコーヒーを淹れる。
大きなマグに深煎りのコーヒーを用意し、そこにたっぷりと牛乳を注ぐ。実は彼、猫舌なのだ。
牛乳を注ぐとほどよく冷め、朝の忙しいときにもやけどすることなく飲めるのがいいらしい。私と暮らしだした当初はブラックコーヒーばかり飲んでいるイメージだった。食卓をともにするようになり、朝も顔を合わせ私がコーヒーを用意してあげるようになると彼が言ったのだ。「牛乳を入れてくれないか。砂糖はいらないから」と。
猫舌なんて可愛い弱点、彼が白状してくれなければ知ることもなかっただろう。
「明日海、洗濯終わっていたよ」
豊さんが洗面所から出てきて、私に声をかける。私がダイニングテーブルに置いておいたカフェオレを見つけて、手に取った。
「ありがとうございます。豊さん、クリーニングに出したいって言っていたスーツがありましたよね。今日、未来と散歩がてら出してきますよ」
「助かる。あとでソファに置いておくよ」
「ソファだと、未来にいたずらされちゃうかもしれないです。今、預かりましょうか」
「頼む」
豊さんの寝室の前まで行き、スーツを受け取った。
一瞬触れ合った手にドキっとしなかったわけじゃない。だけど、平静を装う。
「だしておきますね。お急ぎじゃないでしょう」
「ああ、いつでもいい」
微笑みながら、鼓動を抑え込んだ。