あなたが私を見つける日まで
「良い感じ?」


「うん」


目を瞑ったから眠気が襲ってきたのか、日向君の声はゆっくりとしていて力が無かった。



コンシーラーを塗るなんていう名目じゃなくて、普通に日向君の温もりを感じられたらどれだけ幸せだろう。


週に何度も保健室に来てくれて、何だかんだ話し相手になって私の名前を呼んでくれる彼に、これ以上の何かを望むのは傲慢なのかな。



「はい、終わり。クマも隠れたし安心して寝て下さい」


コンシーラーを塗りつつ日向君の整った顔に見惚れていた私は、パンパンと手を叩いて夢の時間に自ら終止符を打つ。


「ん、あざっす」


余程眠いのか、目を瞑ったまま私に向かって微笑んだ彼は、そのまま隣のベッドに上半身だけ横たわった。


足は床につくかつかないかの所でゆらゆら揺れていて、上半身は枕を抱きかかえている。



ねえ日向君、もしそれを無自覚でやっているのなら君は本当に悪どい人だよ。


バリバリのスポーツマンのくせに小動物みたいに丸くなっちゃって、しかもその無防備な姿をこんな私に見せているなんて。



刹那、授業の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。


日向君、これで50分は寝れるね、なんて笑みを浮かべながら考えていると。
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