あなたが私を見つける日まで
「…ねー、俺が寝るまで何か話してよー、」


隣から、本当に眠そうで呂律の回っていないくぐもった声が聞こえてきた。


「え、話す事なんて何にもないよ。私静かにしてるから、」


「無理、何か話してて」


…寝る直前の人はやけに素直になると聞いたのに、この男は頑固になるのか。


日向君とは本当に色々な事を話したのに、これ以上何を話せばいいんだ。


私が日向君に抱いている想い?


それとも…。




「…凛ちゃんが何で保健室登校してるのか、知りたい」




ドキンッ、と、心臓が大きく嫌な鼓動を立てた。


「…って言ったら、怒る?」


ゼンマイ仕掛けの人形のようにぎこちなく横を向くと、とろんとした目を真っ直ぐにこちらに向けている日向君と目が合った。


その目は確かに眠そうなのに、思わず息を呑む程真剣な輝きを放っていて。


(っ、)


この質問をしてきた人が日向君じゃなかったら、コンマ0.1秒の速さで首を横に振るだろう。


でもこの人は酷い、わざわざ私に選択肢を与えるなんて。


好きな人から“怒る?”と聞かれて、イエスと答える人が地球上の何処にいるだろうか。


「……怒らない、」


数秒の沈黙の後に乾いた唇を舐めて声を発すると、ありがと、と、彼の唇がそう動いたのが見えた。
< 11 / 26 >

この作品をシェア

pagetop