あなたが私を見つける日まで
何で化粧品の名前知ってるの、と驚く私を尻目に、


「妹が良く使ってんだよ。クマも隠せんだろ?ほい」


彼はぬっと手を出してきた。


その手は、バスケをしているからか大きく骨ばっていて。


「あー、良いよ。使い方は分かる?」


自分の化粧品を他人に使われる事に抵抗感を持っていない私は、素直にリュックからコンシーラーを取り出して手渡す。


一瞬だけ触れ合った日向君の手は、木漏れ日のように温かかった。


「妹の見てるから何とかなる、多分」


あざす、と礼を言った日向君は、眠そうに欠伸をしながら鏡の前に立ったものの。


「え、この後どうすんの?てか明るすぎないこの色?」


コンシーラーをクマの部分に乗せた僅か数秒後、早々にギブアップの声をあげた。


「日向君の肌の色が黒すぎるんだよ」


「そんなん知らないし。凛ちゃん塗ってよ、俺女子力無いんだわ」


再び丸椅子に腰掛けた日向君は、顔を突き出して目を瞑る。


健康的に焼けた肌に合わない色のコンシーラーを付けた彼の姿は何ともシュールで、でも何処か可愛いと思ってしまったのは気のせいではないはず。


「はいはい」


一瞬だけ躊躇して、でもそっと日向君の目元に指を沿わせた。


爪で日向君の肌を傷付けないように、細心の注意を払いながらコンシーラーを伸ばしていく。
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