厄介なイケメン、拾ってしまいました。
1 結婚指輪のゆくえ
「そんな哀れな目を向けるならさ、拾ってよ、オネーサン」

 酔い冷ましの水をコンビニで買ったあと、お店を出たところで、男の子に声を掛けられた。
 そのイケメン風の男の子は、アスファルトに下ろしていた腰を上げると、私を見上げてニコっと微笑んだ。
 黒いパーカにジーンズ。整えられていない黒髪はボサっと狼のように跳ねているけれど、不潔感は感じない。たぶん、二十歳かそれくらい。

「ねえ、オネーサンってば」

 慌てて立ち去ろうとした私の腕を、彼はぐっと掴んだ。

「見てたでしょ、俺のこと」
「……」

 見てたよ。
 コンビニの出入り口の近くに、そんな大きなリュック下ろしたイケメンが、ドカっと座ってたら見ちゃうじゃん。

「何も言わないってことは、見てたんだ」
「離して」
「ヤダ。俺、今日泊まるとこないんだよね」
「いやいや、私既婚者だし」
「えー、指輪してないじゃん」

 え?
 私は掴まれていた腕から彼の手を振りほどき、自身の左手をマジマジと見つめた。

 な、ない!
 結婚指輪!!!

「あーーーー! 指輪!!」

 私は先程までのことを思い出す。
 同僚と飲んでて、カクテルをこぼしちゃって、手がベタベタになっちゃったから、手を洗いにお手洗いへ立って、それで――

「居酒屋!!!」

 私は来た道を急いで引き返した。


 居酒屋へつくと、お手洗いへ直行する。

 確か、この洗面台の辺りに……

 ……ない。
 嘘でしょ。



「オネーサン」

 肩を落としてお手洗いから出た私にかけられる、さっきのイケメンの声。

「何、バカにしに来たの……?」

 顔を上げてはっとした。
 イケメンくんは、ニカッと笑う。

「これ? オネーサンの大事なもの」

 彼の手の中には、なぜか私の結婚指輪があったのだ。
< 1 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop