厄介なイケメン、拾ってしまいました。
4 結局、拾わされました
 蓮くんはなぜか今、我が家のソファにスエット姿でくつろいでいる。
 仕方ない。お肉取られるの、嫌だったんだもん。

 蓮くん、というのは彼の名前。
 身元不明の大学生(自称)を泊めるのには抵抗があると言うと、彼はすんなり学生証と免許証と保険証を取り出したのだ。

 東堂 蓮、21歳。
 結構有名な大学。入学年度はストレート。
 住所はここから電車で1時間半ってとこか。
 大学、実家から通ってたんだ。

 ってか、実家帰れよ。

 そう思っていると、また彼は心の声を読んだのか、「帰れない事情がある」とだけ言った。

 私も私で、ある程度の素性を明かした。
 名前と年齢と、家の場所だけだけど。

「紗奈、うまそーな匂いする」

 もうすでに呼び捨て。
 最近の若い子って、みんなこうなの?


 匂いと肉の焼ける音に釣られたか、蓮くんはキッチンを覗きに来た。

「もうすぐ焼けるよ、肉」
「さっすが、主婦。料理上手」
「おだてても何も出ません」
「その肉は……?」
「……私の。キミには白米を恵んであげるから」

 私はかき氷のようにお茶碗いっぱいに白米を盛り付けた。
 彼には、それだけ。
 私は、お肉の和風ソテーとお浸しと味噌汁とご飯。うん、我ながらいいバランス。

「いただきます」

 手を合わせて箸をにぎり、彼は白米を掻き込んだ。すごい速さで。

「ねえ、白米だけだよ?」
「ん。でも、その匂いだけであと3杯食える」

 どんだけ食べる気?
 ……そうか、彼、食べざかりの大学生だった。

 余裕を持って2合炊いたはずの炊飯器は、夕飯のうちにからっぽになってしまったのだった。
< 13 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop