厄介なイケメン、拾ってしまいました。
 それから、ようやっと彼ご所望の服屋へやってきた。
 新しい服を、丁寧に吟味していく。

 そういえば。

「誰が買うの? その服」
「俺。昨日のママ、羽振りいいからさ。でも、服がダサいと文句言うから」

 あのケチな蓮くんが、誰かのために服を買う。
 違う。
 お金のために、服を買うのか。

 そう言いながらも、あれもこれもと吟味された服たち。

 私など目に入らなくなってしまったらしい彼を置いて、私は店の入口に戻る。
 と、目に入るペンダント。

「ドッグタグ……」

 呟くと、店員さんに声をかけられた。

「おねーさん、彼氏さん、服に夢中になっちゃった感じっすね」
「あはは、まあ、ね……」
「これ、気になります? 今は、恋人同士で分けるのも流行ってるですよ?」

 へえ。
 ドッグタグ。
 兵士が首に下げるそれは、戦死した人を識別するためのもの。
 そんなものを、恋人どうしで付けるだなんて。

 ……でも。
 ちょうどいいかもしれない。

「これ、ください」
「お、まいど! 名前、お二人分入れます?」
「ああ、じゃあ、せっかくなので」
「へえ、彼氏さん、愛されてますね!」

 やがて、彼の吟味がようやく終わったらしい。
 持っているカゴには、いくつかのおしゃれな服。

「へえ、全部似合いそう」
「だろ?」
「モデルとか、やったらいいのに」
「ヤダ。俺は、誰かのきせかえ人形になんてなりたくない」
 
 レジにカゴを置いた彼は、一瞬目をそらした。
 けれど。

「あ、おねーさん、さっきの名入れ、もうできてるけど……持っていく?」

 その店員さんの言葉に、彼が急にキョトンとする。

「何か買ったの?」
「あ、ヤベ。これ、内緒のプレゼントだったり……」
「しないから、大丈夫です」

 私は店員さんからドッグタグを受け取った。

「これ、おしゃれな蓮くんに」

 私は、そのまま彼の首に、ドッグタグを掛けた。
 おしゃれのためなんかじゃない。
 だって、それは首輪。
 キミは、私のペットだって、しるし。

「何か解んないけど、ありがと」

 彼の胸元で、キラリと輝くニ枚の札。
 そこに刻まれているのは、彼の名前と所有者の名前。
 このくらい、いいよね?
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