厄介なイケメン、拾ってしまいました。
 ぽちゃん、と天井から湯気が垂れる音がする。私は広い背中を前に、両手に泡を乗せていた。

「ねえ、早く!」

 蓮くんに急かされ、その背に触れる。
 大きな、背中。それは、私が昨夜、夢中になって手を伸ばしたそれ。
 服を着ていれば気にならないのに、どうして裸になると急に意識してしまうのだろう。
 蓮くんがいつもどおりなのも、なんだか悔しい。

「くすぐったいよ、紗奈」

 そうっとしすぎたらしい。
 彼はプルプルと肩を震わせた。

「あー、もう、ダメ」

 蓮くんはそう言うと、くるりとこちらを振り返る。そして、そのまま私の頬をペロリと舐めた。

「こら!」
「えへへ、俺、ワンコなんです」

 蓮くんはそう言って、今度は反対の頬を舐める。

「んん……」

 思わず漏れた声に、目をつぶる。
 と、彼は私の手から泡を掬い取った。

「洗ってあげる」
「え?」
「いいから。これ、くすぐったいの、紗奈にもわからせてあげなきゃ」

 そう言いながら、私の身体を包むように泡を付けて撫で回す蓮くん。
 背中に、肩に、お腹に、その手が触れると、ジンジンと身体が熱を帯びていく。

「もう身体熱いんだけど。まだ湯船入ってないよ?」

 そう言いながら、私の弱いところを執拗に撫でる彼。

「んん……あぁ……」

 身体の力が抜けて、彼のももに寄りかかる。
 耐えられなくて、思わず彼の首に口づけた。

「あーあ、紗奈、スイッチ入っちゃった」

 入れたのは蓮くんでしょ、と思いながら、そのまま彼の肩口を吸い上げた。

「なーにしてんの?」

 ちゅっと音を立てて唇を離す。

「犬吸い。ちょっと、苦い」

 彼はケラケラ笑った。

「じゃ、俺も」

 そう言って、彼は私の肩にキスを落とす。

「犬は飼い主を吸いません」
「だから、甘噛」

 ペロリと舐められカプリと噛み付いてくる。
 今度は、耳を。それから、鎖骨を。
 泡だらけの彼の手は私の背中をかき回して、その滑らかな動きに思わず腰が動いてしまう。

「紗奈、俺もちゃんと洗って?」

 ペットにお願いされたなら仕方ない。
 私も、泡だらけの指を彼の背中に這わせた。

「んん……」

 浴室に響く、蓮くんの色っぽい声。
 そのまま、私は彼の身体に指を這わせた。

「洗ってるだけだよ?」
「んん……もっと、洗ってよ。ちゃんと」

 そう言いながら、彼の唇が私のそれに近づいてくる。
 だから私は、それをペロリを舌で受け止める。
 すると今度は、舌がそこに合わされて、体液をぽたりと風呂場に落とした。

 もう、私の中、ぐちゃぐちゃ。

 掻き乱されて、掻き乱して。

 彼の手が触れる度に、私も彼に触れ返す。

 蓮くんも、私と同じだけ、ぐちゃぐちゃになればいい。

「ねえ、紗奈、俺、もう限界」

 ほら、もっと。
 ぐちゃぐちゃになって。

「私も」

 私も、ぐちゃぐちゃになるから。

「掴まってて?」

 蓮くんに抱っこされた私。
 するりと私の中に入り込んでくる熱。

「んん……」

 汗と石鹸の香り。
 泡と欲情まみれの私たち。

「ああ……!」

 彼と触れ合う音が、浴室に響いた。
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