厄介なイケメン、拾ってしまいました。
 家に帰ると、部屋の前の塀に凭れて、蓮くんは待っていた。

「おかえり、紗奈」
「どーして……?」
「鍵、持ってないし。連絡先、知らないし」
「そっか」

 名前は知ってる。
 住所も知ってる。
 けれど、連絡先は知らない。

 私たちは、所詮そんな関係。


 部屋に入ると、胸のモヤモヤを払うように、早々にキッチンへ向かう。
 包丁を手に、考えるのは旦那のこと。

 言わなきゃ。
 ってか、何でためらってるの? 私。

 はあ、とため息をこぼすと、蓮くんが背中から抱きついてきた。

「ちょ、ちょっと! 危ないでしょ!」
「ごめんごめん。でも、紗奈、むずかしい顔してたから」
「そう?」
「うん」
「だから、ペットの俺が癒やしてあげましょう」

 そう言って、蓮くんは甘えるように私の背中にくっついていた。
 時々、私の耳を甘噛する。
 時々、私のうなじをペロリと舐める。

 その度に、ドキリとして、チクリとする。

 ぐつぐつと鍋が煮立って、火を弱めたところで、蓮くんは私の頬をツンツンつついた。

「ねえ、紗奈」
「何?」
「待てない」
「ご飯? もう少しだから、待――っ!」

 彼の手が私のスカートをたくし上げる。
 そのまま、ももの内側を撫で始める。

「ちょ、そっち!?」
「ねえ、しよ? ……ここでもいいから」

 耳元で囁かれ、カプリと甘噛する蓮くん。
 けれど、胸がキュウっとなった。
 目頭がじわんと熱くなった。

「しません!」

 大声を出したら、同時に涙が溢れてきた。
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