厄介なイケメン、拾ってしまいました。
 先程の店員は上機嫌で空いている席に私と彼を案内すると、お通しと中生二杯を置いて去っていく。

「かんぱーい!」

 彼は勝手にジョッキを手に、まだ置いたままの私の分らしいジョッキにカチンとそれを合わせた。
 そして、そのまま気持ちがいいくらいに一気にあおる。

「くーー! 生き返る!!」

 ニカっと笑うその顔が、あまりにもあどけない。
 あどけない……?

「待って、キミいくつ!?」
「俺? 21」

 ああ、良かった。二十歳超えてた。
 って、良くない!!
 何なんだ、この状況は!!!

「オネーサン、それ飲まないの?」

 彼が指差すのは私の前に置かれた中ジョッキ。
 いるか、とふいっと顔をそらすと、彼はそれならとばかりに自分の方に引き寄せる。
 そして、今度はお通しの枝豆に食いついている。

「オネーサンのも、もらっていい?」
「どーぞ」

 私の前に置かれたお皿を彼の方へ差し出すと、彼はモグモグと枝豆を口に放った。

「っし、今日の夕飯は何とかなったな」
「え、これ夕飯?」
「そ」

 彼は最後にもう一度ビールをあおって、最後に袖でゴシゴシ口元を拭った。

「アルコール最高!」

 何で、この子は……
 いや、関係ない。
 勝手に巻き込まれただけ、私は。
 ほら、早く返してもらって、さっさと帰るよ、私!!

「指輪」
「ん?」
「返してよ、指輪」
「あー……」

 彼は困った顔をしてから、口角をニヤリと上げた。

「俺を拾ってくれたら、返してあげる」
「はぁ?」
「俺さ、帰る場所ねーんだ」
「そんなこと、知らない」
「ケチー」

 彼はチッと舌を鳴らし、指輪を指でコイントスのように弾いた。そしてそのまま自身の手の中に隠してしまった。

「いやいや、返してよ」
「じゃあ、宿恵んで?」
「何で!」
「いいじゃん、旦那さんに『イケメン拾った〜』ってさ、帰れば」
「できるか!!」

 そのヘラヘラした態度に整った顔が相まって、どんどん腹が立ってくる。

「っていうか、どうしてキミが指輪持ってるの!?」
「店員さんに指輪の忘れ物ないか聞いたら、あった」
「何それ!?」

 もう無理。嫌だ。
 こんな人間と関わりたくない。

「じゃーあ、ホテル代出してよ」
「無理」
「この指輪、どーなってもいいんだ?」
「あー、ダメダメダメダメ!!」

 私と旦那を唯一つなぐもの。
 それが、あの指輪。
 あれがないと、私は……。

「分かった。ホテル代を出そう」
「っしゃ! オネーサン、やっさしー」

 そう言って、彼は居酒屋から早々に立つ。私も慌てて彼……もとい、私の指輪を追いかけた。
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