厄介なイケメン、拾ってしまいました。
 朝、目が覚めると、そこに彼はいなかった。
 リビングにも、ダイニングにも。
 荷物も、靴もない。

 けれど、ダイニングのテーブルの上に、唯一彼が残していったものがあった。

「ドッグタグ……」

 ニ枚の札のうちの、一つ。
 私はそれを手にとって、ぎゅっと胸に抱きしめた。

 また見つけたら、拾ってやるか。

 これは、私とペットの、秘密。
 それは、誰にも言えない、秘密。


 その夜、帰宅した旦那は、部屋に落ちていた短い毛を拾った。

「何、この毛」
「ああ、ごめん。友人のペットの犬をね、少しだけ預かったの」
「どんな子?」
「やんちゃな大型犬だったよ」
「へえ」

 旦那は興味なさそうにネクタイを緩めた。

 私はこっそりと、ポケットに忍ばせたドッグタグを握りしめた。
 これがあれば、繫がってられる。

 だから、きっと、また。


<完>
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