不倫の女
「やっぱり、あなたがあの人の命を引き伸ばしてくれたんだな。改めてそう思うよ。でも随分年の差があるのによく好きになれたわね」

 うつむいていた奥様は何かを振り払うように立ち上がり言った。

「年の差とか、気にしたことはなかったです。うち、母子家庭で。小さいときに父を亡くしているんです。だからなのかは……わからないですけど、父がいない、ということが、大人の男性への憧れになったのかもしれないですね。でも裕太さんぐらい年上の人にこういった気持ちになったことはなかったので、やっぱり裕太さんは特別だったんです」

 あんなに好きな人に巡り合うことはこの先の人生で絶対にない。

 奥様に話をしている内に、生きていてくれたら――
 と考えずにはいられなかった。

 でもきっと生きていたら、付いたり離れたりを繰り返していただろう。

 その度に、お互いがお互いを愛しあって傷つけあっていたと思う。
 
 その未来が見えた私は耐えきれず関係性を終わらせることにした。

 私が導き出した答えは、裕太さんにとっては正解ではなかった。

 そもそもこの関係性に正解などなかった。

 全てが間違いだったのだから。
 
 私達はずっと間違い続けていた。
 
 きっと今も――
 
 私の考えを見透かしているかのように奥様は言う。

「あなたがいてくれたことは、あの人にとっての正解だったのね。きっと」

「そんなことはないですよ」

 最後の最後に大間違いをしたのだから。
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