不倫の女
私の内側にこれほどの性欲が潜んでいたとは。気持ちが悪い。
自分自身に対する嫌悪感から私は目を逸らし、彼に向かって笑顔を向けた。
最後になると知っていたから、笑顔でいようとした。
――最期になると知らなかったから笑顔でいられた。
久しぶりに会った彼は頬がこけていたが、元気そうに見えた。
少なくとも休む前よりは、良くなっているように思えた。
ベッドの中では細身の体にどこにそんな力があるのか、激しく突き上げてきた。
「普通に付き合えたら良かったよね」
彼は、事を終えるといつもそう言って笑った。
その言葉が嬉しいけれど、
それが何よりも私を苦しめていることを知らないままだ。
終わった後は、彼はいつも少し眠る。
子どもが遊び疲れて眠るように無邪気に。
私の太ももで眠る彼の頭を撫でる。
いつもと同じように。
快楽の余韻に浸るこの幸福感ももうすぐ終わる。
ずっと。
このままずっと。
浮かび上がる想いは誤魔化しようもない。
でも。
このままじゃ――。
沈みゆく感情は衝突を繰り返している。
筋肉質な体。
柔らかく細い髪。
口角のあがった唇。
血管の浮き上がった腕。
私の好きな彼の部分に触れていく。
この大好きものに、もう触れられることができない。
今までも、いつ発覚してもおかしくないと思いながら逢瀬を繰り返してきた。
その度にもしかしたら、最後かもしれないと一回一回を大切に過ごしてきた。
心の奥底では、最後じゃなくて、次もあるという期待もずっとあった。
でも、今回は違う。
終わりにしなくてはいけない。
そう思って来たはずなのに、決心が揺らいでいる。
彼に触れている部分だけ体温が上がっているようにあたたかい。
彼の寝顔を見る権利は、今この瞬間は私だけのもの。
彼が起きるまでの間眺めておこう。
頬に、
髪に、
腕に、
手に、
体に、
触れ続けていよう。
触れれば触れるほど愛おしくなって苦しくなった。
この苦しい想いにはやっぱり耐えられない。
こんなに苦しいと想うぐらいには、愛していることが裕太さんに伝わっているかな。
言葉にすれば、嫌われるんじゃないか、逃げられてしまうんじゃないかと怖かった。
これで最後になるのだったら、もっとちゃんと伝えておけばよかった。
あなたは受け入れてくれたかな。
きっと――受け入れようとしてくれたと思う。
だってあなたは、やさしいから。
もし私がそんなことを伝えていたら、家族を天秤にかけて、苦しんで苦しんで苦しんだあげく、家族を選ぶんだろうね。
たとえ家族を選んだとしても、苦しみながら可能性を模索してもらえるだけで、私は嬉しいんだろうな。
万が一私を選んだとしても、あなたは家族を裏切ったことに辛くなって抱え込んでしまうのもわかっている。
だから――
あと一回、髪に触れたらキスをしよう。
自分自身に対する嫌悪感から私は目を逸らし、彼に向かって笑顔を向けた。
最後になると知っていたから、笑顔でいようとした。
――最期になると知らなかったから笑顔でいられた。
久しぶりに会った彼は頬がこけていたが、元気そうに見えた。
少なくとも休む前よりは、良くなっているように思えた。
ベッドの中では細身の体にどこにそんな力があるのか、激しく突き上げてきた。
「普通に付き合えたら良かったよね」
彼は、事を終えるといつもそう言って笑った。
その言葉が嬉しいけれど、
それが何よりも私を苦しめていることを知らないままだ。
終わった後は、彼はいつも少し眠る。
子どもが遊び疲れて眠るように無邪気に。
私の太ももで眠る彼の頭を撫でる。
いつもと同じように。
快楽の余韻に浸るこの幸福感ももうすぐ終わる。
ずっと。
このままずっと。
浮かび上がる想いは誤魔化しようもない。
でも。
このままじゃ――。
沈みゆく感情は衝突を繰り返している。
筋肉質な体。
柔らかく細い髪。
口角のあがった唇。
血管の浮き上がった腕。
私の好きな彼の部分に触れていく。
この大好きものに、もう触れられることができない。
今までも、いつ発覚してもおかしくないと思いながら逢瀬を繰り返してきた。
その度にもしかしたら、最後かもしれないと一回一回を大切に過ごしてきた。
心の奥底では、最後じゃなくて、次もあるという期待もずっとあった。
でも、今回は違う。
終わりにしなくてはいけない。
そう思って来たはずなのに、決心が揺らいでいる。
彼に触れている部分だけ体温が上がっているようにあたたかい。
彼の寝顔を見る権利は、今この瞬間は私だけのもの。
彼が起きるまでの間眺めておこう。
頬に、
髪に、
腕に、
手に、
体に、
触れ続けていよう。
触れれば触れるほど愛おしくなって苦しくなった。
この苦しい想いにはやっぱり耐えられない。
こんなに苦しいと想うぐらいには、愛していることが裕太さんに伝わっているかな。
言葉にすれば、嫌われるんじゃないか、逃げられてしまうんじゃないかと怖かった。
これで最後になるのだったら、もっとちゃんと伝えておけばよかった。
あなたは受け入れてくれたかな。
きっと――受け入れようとしてくれたと思う。
だってあなたは、やさしいから。
もし私がそんなことを伝えていたら、家族を天秤にかけて、苦しんで苦しんで苦しんだあげく、家族を選ぶんだろうね。
たとえ家族を選んだとしても、苦しみながら可能性を模索してもらえるだけで、私は嬉しいんだろうな。
万が一私を選んだとしても、あなたは家族を裏切ったことに辛くなって抱え込んでしまうのもわかっている。
だから――
あと一回、髪に触れたらキスをしよう。