不倫の女
「え……?」
そう言った裕太さんの顔がみるみるうちに老けていくような気がした。
私は彼から目を逸らした。
目を逸らしていないと苦しかった。
「凛がいてくれることが、僕の自信の全てなんだ。いなくなったら困る。僕の悪いところは全部直すから」
強く抱きしめられる。
彼の全身が震えている。
恐怖で怯えているように。
「仕事もいけなくなって、自信なんかからっぽになった。最初からなかったのに、底が抜けてしまった。そんな中に唯一残された自信が君との関係性だった。君がいなくなったら、もう生きていけないよ。良くなったように見えるかもしれないけれど、全く良くなっていない。毎日毎日、死ぬことばかり考えている。でも、死なずにいられたのは、君と会いたいと思っていたから——。だから、そんなこと言わないでくれ」
私の全身を強く抱きしめた彼は、そのまま私を逃がさないように掴んでいるかのようだった。
それほど強く抱きしめていないと彼はこの世界から消えてしまうのかもしれないと思った。
「離れるなんて考えたくもない」
「私もそう思っていたよ」
多分、私の方が考えていたよ。
「じゃあ、一緒にいよう」
一緒にいられたら、どんなによかったか。
「あなたには、家族がいるでしょう。もう私もこれ以上傷つきたくないし、傷つけたくないの。だから終わりにしましょう。お互いがお互いを苦しめているんだから」
「僕は傷ついてなんかいないし苦しんでなんかいない。むしろその逆だ。どれほど君の存在が僕を助けてくれていたか――」
私もそうだよ。
裕太さんがいてどれほど幸せで。
どれほど苦しかったか。
「ありがとう。そんな風に思ってくれて嬉しい。本当に。ご家族の方には申し訳ないけれどあなたと会えて良かったって思っている。こんな私を好きになってくれて、想ってくれてありがとう。今までありがとう」
「もう――本当に終わりなの?」
彼のすがるような目。
その目の中に私が映り込んでいるのが見える。
こんなに近づいたのに、離れないといけないのか。
違う。
近づいたからこそ離れなくてはいけない。
「――終わりだよ」
そこで私は強く抱きしめる。
バラバラになりそうに見える彼の体はしっかりここに存在している。
「終わりたくない。君と別れるぐらいなら」
「それ以上は言わないで」
「僕は――」
それを聞いてしまったら揺らぐ。
その先の未来に、一瞬の幸福があることがわかる。
その一方で一生背負わなくてはいけない罪が生まれることを私たちは知っている。
彼が言葉を発さなくていいように彼の口を塞ぐように唇をかさねる。
私たちはお互いがそこに存在しているのを確かめるためだけに愛し合う。
泣きながら。
苦しみながら。
快感を得る。
最後だとわかっているからこそ入念に真剣に丁寧に。
どれほどの時間が経っていたのだろう。時計を見るとすでに夕方だった。
私たちの最後のセックスはあまりにも激しくお互いしゃべることもなく疲れ切って眠りについた。
彼の腕に包まれて寝るのもこれで最後。
少し眠ったらベッドから抜け出して、手紙を書こう。
手紙を書いた後は、彼の寝顔にキスをしてお別れをしよう。
彼が寝ている間に行かないと辛くなってしまうから。
そう言った裕太さんの顔がみるみるうちに老けていくような気がした。
私は彼から目を逸らした。
目を逸らしていないと苦しかった。
「凛がいてくれることが、僕の自信の全てなんだ。いなくなったら困る。僕の悪いところは全部直すから」
強く抱きしめられる。
彼の全身が震えている。
恐怖で怯えているように。
「仕事もいけなくなって、自信なんかからっぽになった。最初からなかったのに、底が抜けてしまった。そんな中に唯一残された自信が君との関係性だった。君がいなくなったら、もう生きていけないよ。良くなったように見えるかもしれないけれど、全く良くなっていない。毎日毎日、死ぬことばかり考えている。でも、死なずにいられたのは、君と会いたいと思っていたから——。だから、そんなこと言わないでくれ」
私の全身を強く抱きしめた彼は、そのまま私を逃がさないように掴んでいるかのようだった。
それほど強く抱きしめていないと彼はこの世界から消えてしまうのかもしれないと思った。
「離れるなんて考えたくもない」
「私もそう思っていたよ」
多分、私の方が考えていたよ。
「じゃあ、一緒にいよう」
一緒にいられたら、どんなによかったか。
「あなたには、家族がいるでしょう。もう私もこれ以上傷つきたくないし、傷つけたくないの。だから終わりにしましょう。お互いがお互いを苦しめているんだから」
「僕は傷ついてなんかいないし苦しんでなんかいない。むしろその逆だ。どれほど君の存在が僕を助けてくれていたか――」
私もそうだよ。
裕太さんがいてどれほど幸せで。
どれほど苦しかったか。
「ありがとう。そんな風に思ってくれて嬉しい。本当に。ご家族の方には申し訳ないけれどあなたと会えて良かったって思っている。こんな私を好きになってくれて、想ってくれてありがとう。今までありがとう」
「もう――本当に終わりなの?」
彼のすがるような目。
その目の中に私が映り込んでいるのが見える。
こんなに近づいたのに、離れないといけないのか。
違う。
近づいたからこそ離れなくてはいけない。
「――終わりだよ」
そこで私は強く抱きしめる。
バラバラになりそうに見える彼の体はしっかりここに存在している。
「終わりたくない。君と別れるぐらいなら」
「それ以上は言わないで」
「僕は――」
それを聞いてしまったら揺らぐ。
その先の未来に、一瞬の幸福があることがわかる。
その一方で一生背負わなくてはいけない罪が生まれることを私たちは知っている。
彼が言葉を発さなくていいように彼の口を塞ぐように唇をかさねる。
私たちはお互いがそこに存在しているのを確かめるためだけに愛し合う。
泣きながら。
苦しみながら。
快感を得る。
最後だとわかっているからこそ入念に真剣に丁寧に。
どれほどの時間が経っていたのだろう。時計を見るとすでに夕方だった。
私たちの最後のセックスはあまりにも激しくお互いしゃべることもなく疲れ切って眠りについた。
彼の腕に包まれて寝るのもこれで最後。
少し眠ったらベッドから抜け出して、手紙を書こう。
手紙を書いた後は、彼の寝顔にキスをしてお別れをしよう。
彼が寝ている間に行かないと辛くなってしまうから。