不倫の女
第3章 不倫の女
 裕太さんとの最後に会った日のことを考えて、目を閉じる。

 私たちの関係性は正解ではなかったし、不幸へ突き進む道ではあった。

 しかし、その道でしか拾えない幸福もあった。

 それは夢のように覚めたら終わりなのに、掴もうと必死でもがいていた。

 もしかしたら今も、必死にもがいている最中にいるのかもしれない。

 奥様が話し始めた。

「お父様が亡くなられてから、どういう幼少期を過ごしてきたの? 言いにくいでしょうけど、聞かせてほしいな。息子のこれからの人生のためにもね」

 息子のこれから、というその言葉は何よりも重かった。

「そうですね。亡くなった人のために悲しむんじゃなくて、楽しんでいきる、とかですかね。月並み過ぎて参考にならないかもしれないですけれど」

「月並みだからこそ、それが真理なのね。苦しむよりも楽しむ方が人生マシでしょうねえ。あなたは、人生を楽しんでこれた?」

「そうですね。幸い、父はそこそこ大きな会社の経営者だったので、遺産があってお金で苦しむことはなかったです。母は遺産が少ないとぼやいていることもありましたけど普通の人以上にお金はあったはずです。お金のことを考えなくていいから、同じように親を亡くされている人よりは優遇されていたのかもしれないです」
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