不倫の女
「……強制、終了ですか」
彼の死因がどうしても頭をよぎる。
「そう。ブツンって、パソコンがいきなり真っ暗になるみたいにね。データは残っているのにバックアップできないみたいな状況だったわ。あ、ちなみに言っておくけれど、うちの旦那みたいに命を終わらせたって意味じゃないわよ。相手の奥さんに知られて、関係性を終わらせられたの」
「そうなんですね」
私もその状況に近いだろう。
彼が命を強制終了させてしまったのだから。
彼とのバックアップデータがそこかしこに散らばっている。
誰もいないことを確認しながらキスした職場。
待ち合わせたデパートの駐車場。
誕生日に買ってくれた髪留め。
一緒に行ったレストラン。
国道沿いのラブホテル。
示してくれた価値観。
もらった言葉――。
それらを思い出して苦しい。
彼が生きているときもずっと苦しかった。
幸せを感じながらずっと苦しかった。
私が彼の強制終了のスイッチを押した。
直接的な原因にはならなかったとしても、遠因になったのは間違いない。
自分を正当化するのはやめろ。
自分でそのスイッチを押してしまったと認めたくないだけだ。
バックアップは残っていても、二度と復旧できない。
奥様のご友人の状況がありありと浮かぶ。
「そのご友人はどうされたんですか」
「今は普通に結婚して、子どもも二人いるわ。別れた後は、ちょっと酷かったわね。精神が病んで、自殺未遂も何度かしていたみたい。遺書も書いたって言ってたかな。普通の恋愛でも落ち込むことはあるけど。状況が特殊だから落ちてしまったらとことん落ちていくのよね」
私も彼との関係性が最高潮のときに強制終了していたら――きっと。
私がこうして、彼の後を追わずにのうのうと生きていられるのも、彼との関係性を終わらせなくてはいけない、という思いに至ったからだ。
とはいえ、彼が嫌いになったわけではなかった。
だからこそ、辛い。死ぬほど辛い。
彼への想いはまだ鮮明に残っている。
亡くなって、まだ三日も経っていない。
「友人が自殺未遂しようとしていたのは、私も悲しかったけれど、生きててくれてよかったわ。生きていたら、まあ何だかんだ、何とかなるのにね」
――ホント、バカよね。
奥様は私の顔を見て言う。
その言葉はきっと私ではなく彼に向けられている。
私は奥様と目を合わせたが耐えきれずに前を向く。
遺影の中の彼は吞気に笑っている。奥様の言葉に対しての苦笑いだろうか。
彼の死因がどうしても頭をよぎる。
「そう。ブツンって、パソコンがいきなり真っ暗になるみたいにね。データは残っているのにバックアップできないみたいな状況だったわ。あ、ちなみに言っておくけれど、うちの旦那みたいに命を終わらせたって意味じゃないわよ。相手の奥さんに知られて、関係性を終わらせられたの」
「そうなんですね」
私もその状況に近いだろう。
彼が命を強制終了させてしまったのだから。
彼とのバックアップデータがそこかしこに散らばっている。
誰もいないことを確認しながらキスした職場。
待ち合わせたデパートの駐車場。
誕生日に買ってくれた髪留め。
一緒に行ったレストラン。
国道沿いのラブホテル。
示してくれた価値観。
もらった言葉――。
それらを思い出して苦しい。
彼が生きているときもずっと苦しかった。
幸せを感じながらずっと苦しかった。
私が彼の強制終了のスイッチを押した。
直接的な原因にはならなかったとしても、遠因になったのは間違いない。
自分を正当化するのはやめろ。
自分でそのスイッチを押してしまったと認めたくないだけだ。
バックアップは残っていても、二度と復旧できない。
奥様のご友人の状況がありありと浮かぶ。
「そのご友人はどうされたんですか」
「今は普通に結婚して、子どもも二人いるわ。別れた後は、ちょっと酷かったわね。精神が病んで、自殺未遂も何度かしていたみたい。遺書も書いたって言ってたかな。普通の恋愛でも落ち込むことはあるけど。状況が特殊だから落ちてしまったらとことん落ちていくのよね」
私も彼との関係性が最高潮のときに強制終了していたら――きっと。
私がこうして、彼の後を追わずにのうのうと生きていられるのも、彼との関係性を終わらせなくてはいけない、という思いに至ったからだ。
とはいえ、彼が嫌いになったわけではなかった。
だからこそ、辛い。死ぬほど辛い。
彼への想いはまだ鮮明に残っている。
亡くなって、まだ三日も経っていない。
「友人が自殺未遂しようとしていたのは、私も悲しかったけれど、生きててくれてよかったわ。生きていたら、まあ何だかんだ、何とかなるのにね」
――ホント、バカよね。
奥様は私の顔を見て言う。
その言葉はきっと私ではなく彼に向けられている。
私は奥様と目を合わせたが耐えきれずに前を向く。
遺影の中の彼は吞気に笑っている。奥様の言葉に対しての苦笑いだろうか。