わけあり家令の恋
 一方で、私は罪悪感のようなものを覚え始めていた。
 
 いくら夫の提案だったとはいえ、病に臥せっている彼を残し、こんなふうに出歩いていていいのだろうか?

「どうなさいました、奥様?」

 私が急に黙り込んだからか、杉崎がいぶかしげに声をかけてきた。

「い、いえ。何でもありま――」

 うろたえて視線をさまよわせた時だ。

 私は一軒の店先に、たくさんの毛糸玉が並んでいることに気がついた。

「まあ」

 外国製だろうか? どれも色合いが美しく、フワフワしていて、肌触りもよさそうだ。
 こんな毛糸でマフラーやセーターを編んだら、さぞあたたかいことだろう。

(そうだわ!)

 私は足を止め、その店に入ることにした。

「杉崎さん、旦那様にマフラーを編んで差し上げたいのだけれど、何色がお好きかご存じ?」
「マフラー……でございますか?」

 杉崎は少し面食らったように目を見開いてから、かぶりを振った。

「申しわけございません、奥様。あいにくですが、わたくしは存じません。ただ何色であっても、きっととてもお喜びになるでしょう」

 微笑む杉崎の後ろで、幸も「そうですとも」と目を輝かせている。

「わかりました。では、幸。どの色がいいか一緒に選んでちょうだいな」
「はい、奥様!」
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