わけあり家令の恋
 好みもわからず、まして顔や背格好も知らない相手のために、何かを選ぶのは難しいものだ。

 それでも私は思案のあげく、少しグレーがかった水色の毛糸を買った。
 軽いし、きれいな色だから冬の町でも映えそうだと思ったのだ。

 それから私たちはひと休みするため、最近人気だというカフェに入った。

 店内は窓が大きく、天井も高くて、真っ白なクロスがかけられたテーブルがいくつも並んでいる。
 ステンドグラス製の照明やテラコッタの床もしゃれていて、まるでどこか外国にいるようだった。

「奥様、わ、わたくしはけっこうでございますから」

 その雰囲気に臆したのか、はじめのうち幸は恐縮しきって外で待つと言い張った。

「心配しなくていいから、中に入ろう。幸だって疲れただろう?」

 杉崎がそんなふうに説き伏せてくれたが、彼女の気持ちもわかる気がした。
 こんな店に入るのはずいぶん久しぶりで、実は私も少し緊張していたのだから。

 何を頼めばいいかもわからなかったが、杉崎がそばにいてくれると、とても安心できた。
 だから私は彼や幸と同じテーブルにつくことにした。

 こんな姿を見たら、両親は眉をひそめて嘆くかもしれない。

 けれどももう私は子爵令嬢ではないし、たとえ使用人であっても、今は彼らと一緒に過ごしたかったのだ。
< 13 / 25 >

この作品をシェア

pagetop