わけあり家令の恋
家令の告白
 翌朝、私はいつもの時間に夫の部屋を訪れた。

 ただ、その日は朝のお茶は用意せず、羽根田の家から持ってきた古代紫の紋綸子の色無地を着ていった。
 たとえ夫に会うことがかなわないとしても、どうしても伝えなければいけないことがあったのだ。

 幸は私の着物姿に驚いていたようだが、あえて何も言わなかった。
 彼女なりに何か思うところがあったのかもしれない。

 そして昨夜のことがあったからなのか、夫の部屋の前に杉崎の姿はなかったが――。

「おはようございます、奥様」
「お、おはよう、栄」

 その代わりのように私を待っていたのは、女中頭の栄だった。

 しかしそれ以上に驚いたのは、いつもしまっている扉が開け放たれていたことだ。

「中で旦那様がお待ちです」
「旦那様が? でも、ご体調は? わたくしがお会いしてもよろしいの?」
「さようでございます。ご心配はいりませんから、どうぞお入りください」

 栄は深々と頭を下げると、その場を去った。

 いったい何が起きているのだろう?
 加瀬家の人々は、まるで私の決意を察したかのような反応を見せている。

 それでも私が進むべき道はひとつしかなかった。
 私は背筋を伸ばし、唇を引き結んで、夫の部屋に足を踏み入れた。
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