わけあり家令の恋
 加えて、女学校では器量よしと褒められることも多かったが、貧乏令嬢の私を妻に迎えたがる者など他にはいなかった。

 愛のない結婚――そんなことははじめからわかっていた。私は夫となる人に一度も会わないまま嫁いできたのだから。

 しかしこうして妻となってからも、状況が変わらないなんて想像もしなかった。

 加瀬亮介、年は二十八歳。

 帝大を卒業し、今は加瀬商会の社長を務める青年――私が知っているのは今もそれだけだ。
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