わけあり家令の恋
近づきたくて
 加瀬家の朝は早い。

 使用人の数はそれほど多くないようなのに、勤勉な者が多いのか、私が身支度を終えて部屋を出るころにはすべてがきちんと整っていた。

 磨き上げられた長い廊下や、くもりひとうない窓ガラス。花瓶に生けられた花も瑞々しい。

「おはようございます、奥様」

 すぐに私付きの女中である幸がやって来て、深く頭を下げた。

「おはよう、幸」
「お食事の用意をしても、よろしゅうございますか?」

 嫁いできたばかりだから勝手がわからず、お互いまだ手探りの状態だ。
 とはいえ十七だという幸とは年が近いこともあって、うまくやっていけそうな気がした。

 それに以前のように何もかも使用人に手伝ってもらうわけではない。
 実家が傾き始めてから、私は身支度や髪結いは自分でするようになっていた。

「ありがとう。でもお食事は少し待ってもらえる? 旦那様のところへ伺ってみるから」

 夫の部屋を訪ねたところで今日も中に通してはもらえなそうだが、せめて挨拶くらいはしたいと思ったのだ。

「はい、かしこまりました」

 深々とお辞儀する幸はいかにも素直そうに見える。私はふと彼女に夫のことを訊いてみる気になった。
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