わけあり家令の恋
「奥様、おはようございます。こんなところでどうされたのですか?」
「旦那様に少しだけでもご挨拶できないかと思ったのだけれど……今朝のお加減はいかがです? やはりまだ思わしくないのかしら?」
「ご心配されて、こちらにいらしたのですか?」

 杉崎はなぜか途方に暮れたように目をしばたたいたが、すぐ真顔に戻った。

「今日は幾分お元気になられましたが、ご面会はまだ――」
「そうですか」

 しかたないとは思うものの、何の役にも立てないことが歯がゆくてしかたがない。

「もうお食事はなさったの?」
「いいえ。もともとお忙しくて、朝は飲みものも召し上がらない方ですので」
「まあ」

 私は思わず眉をひそめた。
 病状にもよるだろうが、何も口にしないのはよくない気がした。
 せめて水を、いや、白湯……ああ、それともお茶はどうだろう?

「ひょっとしてお茶なら召し上がれるかしら?」
「あ、はい。ええ、おそらく」
「ごめんなさい、杉崎さん。ここで少しだけ待っていてくださる?」

 怪訝そうにしている杉崎をその場に残し、私は自室に急いだ。

 昨日から少し寒かったため、部屋には火鉢が置かれ、お湯が沸いている。来客用なのか茶器の用意もあった。

 杉崎を待たせているので少し慌てていたが、私はできるだけ丁寧にお茶を淹れ、彼のもとへ戻った。
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