あなたには帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない。
ある時、母子を助ける任務の最中――ふと、死んだ母のことが頭をよぎってしまい、危うく魔物を討伐し損ねかけた。幸い、アイザックが助けてくれたので良かったけれど――。
(私情で気を取られてしまうなんて、騎士失格だわ……)
落ち込んでいると、彼が頭をポンポン叩いてきた。
「ミリー、酒でも飲みに行くぞ」
そうして、酒場に連れて行かれたのだけれど、今まで家庭の事情なんて他の人に打ち明けたことがなかったし、空元気のまま酒瓶を大量にあけてしまった。
結果――酔い過ぎた私を、アイザックがお姫様抱っこで宿舎に送ってくれたのだ。
部屋の中、ベッドに横たえられると、丁寧に掛け布を彼がかけてくれた。
ふと、彼に打ち明けることが出来なかった思いを吐露する。
「私の母さん、子どもを魔物から庇って、その傷が原因で……」
思い出したら熱い涙が溢れ出しそうだった。
「ミリー、お前も大事な人を失くしているんだな……」
(お前も……?)
ふと、アイザックの顔を見たら、なんだかすごく寂しそうだった。
「あまり女性の部屋に立ち入るべきではないな――明日も早い、それじゃあ」
「待って――」
立ち去ろうとした彼を私は引き留めると同時に、彼の首に抱き着く。
「行かないで――」
このまま彼と離れたら、なんだか彼が消えていなくなりそうで――。
そうして――
私たちは結ばれたのだった。