あなたには帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない。



 ぐちゅぐちゅと水音が立ち込め、むわりと熱気がこもった部屋の中で、声を殺したまま、私は男に抱かれていた。
 秘所と局所は繋がり合っていて、交じり合った精と愛液とが互いの肌の上を、ゆっくりと零れて濡らす。

「……っ……アイザック」

 視界の中、同僚騎士アイザックの銀朱(バーミリオン)の髪が陽のように揺らいだ。

「……っ……あっ……」
 
 筋骨隆々とした体躯、引き締まった腰。ガクガクと激しく身体を翻弄された。
 騎士の任務の時以上に激しい運動量で、なんとか相手の動きに呼応した。
 乱れきったシーツをきつく握りしめ、荒ぶる激しさに耐えていると、相手の切れ長の知性的な青金石(ラピスラズリ)の瞳と視線が出会う。

「ミリー」

 色香を孕んだ声。
 まるで愛しい女性を呼ぶかのように、彼は私の名前を呼んでくる。
 ただでさえ昂ぶっていた頭の中は沸騰しそうで、鼓動がどんどん高鳴っていく。
 相手が腰を揺さぶる最中、器用に首筋に口づけてこられると、びくんと私の身体は震えた。
 我慢しても、どうしても甘ったるい声が漏れ出てしまった。

「あっ、んっ、んっ……あっ、これ以上は……っ……もう……」

「そんな……締め付ける……な……俺も、もう……」

 膨張していた熱棒がさらに質量を増した。
 抽送運動が獣じみてくる。
 腰を引き抜こうとする際に、離れがたくて両脚でしがみついた。
 相手も男の性には耐えられなかったのだろう。熱の奔流が下腹を支配してきた。

「ああっ……――!」

「……っ……」

 相手の局部が秘部の中、何度か獣のように蠢いた後に沈黙した。
 互いの荒い呼吸が室内を支配する。
 相手が私の内からいなくなると、なんだか胸までぽっかりと穴が空いたようだ。
 複雑な表情を浮かべた彼が、乱れた私の黒髪を節だった指が梳いてくる。

「ミリー、もっと自分の身体を大事にした方が良い……男性に引けをとらないほどに強い君だが、とても魅力的な女性なんだから……仕事が好きだって言っていただろう。子どもが出来たら……」

「……今まで出来てないから出来ないわ」

 ふいっと私が顔を逸らした。

(全部が終わった後に、それを言うのはズルい……)

 彼が私のこめかみに口づけてくると同時に、近くに脱ぎ捨てていた騎士団のコートに身を包む。

「ミリー、これから特別任務があるんだ。だから、行かないといけない」

「そう……」

 ……嘘だ。

 彼の言葉に胸が軋む。

(たまたま見てしまった。宿舎に置いてあった面会予定の名簿に、彼と同じ姓の女性と子どもの名前が書いてあったのを……)

 彼は私に気付かれないように――嘘を吐いているのだ。

「行ってくる……ミリー」

 私の唇の端に彼がそっと口づける。
 
 そのまま、立ち去る彼の背を見送る。


「アイザック、行かないで……」


 か細い声は届かない。

 パタンと虚しくドアが閉まる音が響く。


「……っ……」

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