あなたには帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない。



 泣きそうになった、その時――。

 ガチャリとドアが開く。

「ミリー、言い忘れていたことがある」

 まさか戻ってきたアイザックの姿を見て、胸がきゅうっと疼いた。

「お前以上に俺と相性の良い女はいないと俺は思っていて……いや、言い訳がましいな……それじゃあ、また――」

 彼はそう言い残して、今度こそ去って行った。

 私は乱れたシーツの上に顔を突っ伏す。

 我慢していた涙が零れはじめた。

 ……妻のいる男性じゃなければ、こんなに辛くならずに済んだのだろうか?

 ――このまま関係を続けてはいけない。

 彼の家族に対して罪悪感は募る一方だ。

 誰かを傷付ける関係なんて間違っている。

 先に待っているのは破滅だけ。

 ダメだ、ダメだと、理性は訴えかけてくる。

 だけれど、感情に蓋をしようとすればするほど、想いは溢れ出してきてしまう。

 矛盾した思いに、心が壊れてしまいそうだ。

 あと少し、もう少しだけだから……。

 ……この僻地での任務が終わるまでだけだから。

 彼が妻の元に戻るまでの間で良いから。

 そうやって、自分に言い訳をして……体を重ねるのを止められない。

 彼は「また」と言ったけれど……毎回離れる度に、本当に次があるのか不安で仕方がなくなる。
 いつか終わりが来るのは分かっているのに――。

「アイ……ザック……」

 もっと早く出会えていたら、私たちの未来は違っていただろうか。

 もっと恋人らしく堂々と愛し合うことが出来たのだろうか――?

 この世に、もしもなんてないことは分かっている

「ごめんなさい……私が一番狡い……」

 火照っていく身体が次第に冷たくなっていくのが、なんだか嫌で、まだ残る彼の温もりが冷めていくのを逃したくなくて、慰めるかのように自身を腕でかき抱いたのだった。

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