あなたには帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない。
騎士になった時に家庭持ちでないと格好がつかないから。
そんな理由で、王都に住んでいた頃のアイザックは妻マリーンを娶ることになった。
騎士見習いの時の先輩バッシュの勧めだったのだ。
飴色のゆるい長い髪の妻マリーンは、いわゆる女性らしい女性だ。
家事をそつなくこなして、非の打ちどころがない。
性の相性としては、女性側がやや淡白だったのが気になった。とはいえ、相手は処女なわけだから、仕方がないとアイザックは思っていた。
周囲からの勧めで結婚したのだが、なんだかんだで、アイザックはマリーンを妻として徐々に認めるようになったのだ。
だけれど、どうしても気になることがあった。
妻マリーンの先輩バッシュを見る時の目が――どうしてもアイザックに向けるものよりも、女性らしいものだったのだ。
(いや、気のせいだろう……)
だが、やはり妻のバッシュに向ける瞳は異常だった。
人から勧められたことだったけれども、彼女を娶ると決めたのは自分だ。
疑いたくはなかったし、離縁する気もなかった。
だが、風の噂を耳にしたのだ。
――バッシュにフラれたマリーンが、自棄を起こして、あてつけがましく後輩のアイザックと結婚したのだ、と。
バッシュは短い紅い髪の持ち主で、いわゆる気さくなイケメンで仕事も出来る男だ。
アイザックの雰囲気と似ているとたまに言われることもあった。
アイザックは、結婚前の妻の想い人にまで口は出したくなかった。
形骸的な結婚だったけれど、時間がいつか解決するだろう。
そう思っていたけれど――。