あなたには帰る場所がある。だから、愛しているとは言えない。
ある夜、本当は夜勤の予定で家に帰れなかったはずだったが、非番になったので夫婦の家に帰った時のことだ。
妻が寝ているだろうからと、そっと――部屋の中に侵入したところ――。
「っあっ……ああっ、良いっ……もっと、奥深くに入ってきてっ……ああっ……」
聴こえたのは――妻の甘ったるい嬌声。
そうして――汗ばんだ肌同士がパチュンパチュンとぶつかる水音。
アイザックの妻マリーンの身体を支配しているのは――。
「中に……出してっ……ああっ、バッシュっ……私はバッシュの子どもが産みたいのっ……ああっ……」
――自分の先輩であるバッシュの姿だったのだ。
汗ばんだ肌は艶めかしく光、弾力のある乳房がたゆたゆと揺れる。投げ出された脚が振り子のように揺れ動く。
普段の彼女に比べてひどく扇情的だった。
「アイザックよりも、俺の方が良いのか?」
「ええ……良い、良いわっ……あっ、出してっ、バッシュっ……あっ……」
そう言われると――剣が強いと評判のバッシュだったが、どうしてもアイザックの方が強かった。
だから、当てつけのように、バッシュはマリーンに手を出したのだろうか。
アイザックは黙って先輩騎士が愛妻に精を吐き出す様を見届けた後――。
どこか虚ろな心のまま、家を後にした。
そうして――そのまま家から脚が遠のいてしまい――彼女には離縁通知を届けたまま、へき地の任務を希望して――妻から逃げるようにして姿を消したのだった。