細胞が叫ぶほどの恋を貴方と
過ごす

 それから末永さんとは、数日に一度のペースで会った。
 彼の部屋でゆっくり過ごすことが多かったけれど、たまに外で待ち合わせて食事に行くこともあった。

 末永さんの移動手段が車のため、会うたびに送迎してもらうのが申し訳なくて、送る手間を省くためにわたしの部屋に招いてみたりもしたけれど。物理的に距離が近付く1DKの部屋は良いとしても、抱き合うにはシングルベッドは狭すぎた。それに有り得ないほど軋んで揺れるベッドに思わず笑ってしまい、全く集中できなかったため、大人しく末永さんのお部屋にお邪魔することにした。
 ちなみに「夜は危ないから」とのことで、バスでの移動は早々に却下されている。

 週末はいつも通りブックカフェ「クヴェレ」で過ごした。末永さんの部屋でただ本を読んでいることも多かったし、ミル付きで全自動の良いコーヒーメーカーを愛用していたから、一緒にクヴェレに行こうと誘ってみたけれど、すげなく断られた。
「からかわれたくない」とのことだった。

 そういえば香代乃さんが「長い付き合い」と言っていたけれど、どれくらい長いのか。何の気なしに訊ねたら、末永さんはほんの少し言い淀み、苦笑とともに「高校から」と答えた。
 その表情が気になったから、これ以上は何も聞かなかった。けれど、なるほど。高校生からの付き合いならもう十五年以上だ。香代乃さんが「大事な存在」と言った理由も分かる。

 そして確かにクヴェレに行くと、他にお客さんがいないタイミングで必ず、香代乃さんに「ユキトと仲良くやってる?」と聞かれ、ケイさんには「プライベートのユキトさんの様子教えて」と言われる。
 三人の関係は微笑ましく見えるが、この一年、クヴェレで末永さんと会わなかった理由はこれだろう。

 店に来ない代わりに、末永さんは必ず近くのコインパーキングで待っていてくれて、必ず「ふたりにだる絡みされなかった?」と心配するから、わたしは必ず笑ってしまう。
 これが、ここ数ヶ月の出来事である。

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