細胞が叫ぶほどの恋を貴方と
そのあと、持ち帰って検討したらしいケイさんと、ケイさんから事情を聞いたらしい末永さん、香代乃さんから何度も着信があったけれど、スマートフォンに手を伸ばすことすら億劫で、そのままにした。
こんな対応はよくないと分かっている。この関係が不倫だと発覚した以上、奪う側になってしまったと気付いた以上、もう終わりにしなくては。
きちんとお別れを言って、綺麗に関係を断ち切らなければ。
わたしは大好きな人と馴染みの店をいっぺんに失くすことになるが、仕方のないことだ。
けれどわたしはすぐに決断できず、結論を先延ばしにした。
夜が明けてもまだスマートフォンを手に取る気にはなれず、かと言ってせっかくの日曜日に掃除や洗濯をする気力もない。読書をする集中力もなさそうだ。
頭の中には様々な感情や昔の記憶、末永さんとの愛しい日々や、クヴェレでの一年が溢れかえり、大渋滞を起こしている。
このままではまずいと判断し、のそのそと起き上がる。
心臓に電気ショックを与え、正常なリズムに戻すように、一旦環境を変えて落ち着かなければ。結論を先延ばしにするだけではなく、明日からの仕事にも支障が出る。
そして着の身着のまま、財布とスマートフォンだけを手に、実家へと戻ったのだった。
二十八歳にもなってぐずぐずの状態で、お正月ぶりに帰宅した娘に、両親も弟も特に何を訊ねることもなく、お風呂と食事と寝床を提供してくれた。
そうしたら夜には少しだけ気力が戻り、末永さんに「電話に出なくてごめんなさい」とメッセージを送った。すぐに返信があったけれど、読まずに眠りについた。