細胞が叫ぶほどの恋を貴方と

 ほんの一週間来なかっただけで、もうすでに懐かしい末永さんの部屋で、一人分の間を空けてソファーに座り、事の経緯を聞かされた。

 ぽつりぽつり、記憶を指でなぞるよう慎重に、ゆっくりと語られるその話を、わたしはただ黙って聞いていた。

 同級生だったという末永さんのお父さんと香代乃さんのお父さんが同窓会で再会し、同い年の子どもがいると知り、ふたりを引き合わせたのは、高校生の頃だった。

 それから家族ぐるみの付き合いが始まり、ふたりはよく顔を合わせるようになる。
 けれど今よりずっと真面目で堅物で効率主義だった末永さんと、今よりずっとマイペースで我が儘でお姫様のようだった香代乃さんは性格が合わず、仲良くはなれなかったという。

 それでも末永さんは、香代乃さんの我が儘を受け入れ、手のかかる親戚の女の子のような気持ちで接していたらしい。

 その関係が変化したのは、ふたりが二十六歳のとき。香代乃さんのお父さんが事故で亡くなったのだ。末永さんのお父さんはひどく哀しみ、故人の夢だった「幸俊と香代乃の結婚」を実現させたいと言い出した。

 末永さんは拒否したけれど、香代乃さんは妙に乗り気で、押し切られ、試しに付き合ってみることにした。

 しかし大人になったとはいえ、ふたりの性格は合わないまま。香代乃さんは毎日我が儘を言って、希望が通らなければ怒鳴り散らし、口論は時間の無駄だと思っていた末永さんはそれを聞き流す。恐ろしいほどのストレスが、ふたりにのしかかっていった。

 お試し期間は失敗だ、結婚するべきではないと思っていた矢先、末永さんのお父さんが病に倒れたという。
 病床で父は弱々しくふたりの結婚を懇願し、そんな父の姿を憐れんだ末永さんは、香代乃さんの説得もあり、話し合いの末、結婚を了承した。
 そして二十八歳になる頃ふたりは夫婦になり、それを見届けたお父さんは旅立って行った。

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