細胞が叫ぶほどの恋を貴方と

 けれど問題はここからだった。
 やはり性格の不一致は大きく、また元々不安があった性生活では全く反応しなくなったという。
 病院で心因性のEDの診断を受けると、香代乃さんは「私のせいだ」と涙を流し、長年に渡る我が儘と罵詈雑言を謝罪し、離婚を申し出たらしい。
 しかしそれより先に、香代乃さんのお兄さんが、結婚から数ヶ月で突然スピード離婚をした。

 気が弱かったという香代乃さんのお母さんは、夫の事故死から立ち直れないまま、家族ぐるみの付き合いだった末永さんのお父さんの病死、そして長男の離婚を聞き、すっかり気を病んでしまったという。

 そこで末永さんと香代乃さんは話し合い、お母さんの体調が回復するまで夫婦でいることに決めた。
 ただしいつでも離婚できるよう弁護士を介して話し合い、財産や権利をどうするかまで全て決め、書類も用意した上で、別居を始めたという。離婚成立まで何年かかるか分からないため、恋人の可否についてもしっかりと書面に書いてあるらしい。恋人を作っても、慰謝料等の請求はしない、謂わば夫婦公認の恋人である、と。
 それが三年前の話だ。

 別居からの三年間、末永さんはただひたすら仕事に打ち込んだ。香代乃さんはケイさんと出会い付き合うようになってから、どんどん性格が丸くなり、昔のマイペースさを残しつつも、穏やかに暮らすようになったらしい。
 つまり香代乃さんは末永さんのような真面目な人ではなく、ケイさんのようなのんびりとした人のほうが合っていたのだろう。「上手くいかないわけだよ」と末永さんは苦笑する。

 別居から三年経った今では、ごくたまに親族の集まりや、香代乃さんのお母さんのお見舞いに行くときにだけ会うくらいで、夫婦としての関係はとっくになくなっている。籍を入れているだけで、ふたりにとってはもう終わった過去のことだ。時が来れば、すぐに離婚が成立する。

「だから話さなかった。そんなことを話すより、芙希子と穏やかに過ごしたかった」と。末永さんは真っ直ぐにわたしを見据えながら言い切った。

「ちなみに芙希子に初めて会った日、反応した俺を見て、大喜びできみにアプローチするように言ったのは香代乃」
「そうだったんですね……」


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