細胞が叫ぶほどの恋を貴方と
種明かしをされて改めて考えてみると、確かにそうだ。
香代乃さんはわたしの部屋をわざわざ訪ね、末永さんをどう思ったか質問した。「大事な存在」だけど「私じゃユキトを癒せない」とも言った。だからわたしに「託す」と。
長い付き合いで、結婚までした間柄だ。本当に大事な存在なのだろう。男として、心から好きだったからこそ、香代乃さんは末永さんに我が儘を言い、振り向いて欲しいのに振り向いてもらえず感情をぶつけ続けた。でもそれが原因でEDが発症したと知り、身を引いたのだろう。大事な大事な、末永さんのために。
そして今となっては「男女」の情から「家族」や「親友」の情に変わっているかもしれない。
ケイさんについてもある。ケイさんに連れられ、初めて末永さんの部屋を訪ねたとき。大量のスキンや下着類など、明らかに「そういうこと」をするためのセットを用意してくれた。
末永さんと香代乃さんが夫婦であると知っていたケイさんが、だ。つまりは末永さんとわたしがそういう関係になっても大丈夫だと知らせていたのだ。事情を知らなければ、不倫を勧めたりはしないだろう。
考えてみれば簡単なことだった。
けれどここ数日で様々な感情と記憶と情報を出し入れさせられた頭は、もうパンク寸前である。一旦休憩が欲しい。が、ちらりと末永さんを見ると、わたしの返答を不安な表情で待っていたから、答えだけは出さなければ。
「……わたしは、奪ったわけではなかったんですね? 香代乃さんから、大事な人を……」
「大事の定義が分からないけど、夫や恋人という意味で言っているのなら、うん、そうだよ」
「じゃあわたしは、末永さんと一緒にいても良いんですね?」
「離れられたら困る。きみこそ、俺から大事な人を奪わないで」
瞬間、抑え込もうとしていた感情が全身に溢れた。
細胞という細胞が、彼が好きだと叫び出し、わたしはその声に従って、間にあった一人分の隙間を埋め、彼に跳びついた。
彼もわたしを足の間に引き寄せ、身体をさらに密着させる。
嗅ぎ慣れた柔らかい香りとよく知る体温は、パンク寸前だった思考を鎮め、それと同時に身体の芯を煮えたぎらせた。
やはり細胞が言っている。彼が欲しいと。彼で間違いないと。こうなるのは彼だけだと。
きつく抱き合ったまま彼に唇を貪られ、口内に舌を招き入れると、ほっとして目を閉じた。
歯車の正しい位置に正しい部品をはめ込んだことで正しく動き出した。そんな気分だった。
人生においてそんな人と出会い、恋をすることができるわたしは、幸運だと思った。