細胞が叫ぶほどの恋を貴方と
知る
翌日。仕事を終えて最寄り駅に辿り着くと、ケイさんがガードレールに寄りかかり待っていた。
黙っているときのケイさんは、目鼻立ちのはっきりした童顔も相まって、透明感のある美青年だけれど、わたしを見つけた途端にふにゃっと笑って「お待たせー」とのんびりした声を出した。
「いえ、お待たせしたのはわたしです」
「まあまあ、とにかく行こうか」
いつでもどこでもマイペースなケイさんに迎えに来てもらったのは、これから末永さんの自宅マンションに行くからだ。
末永さんのマンションは、わたしの最寄り駅ともうひとつ先の駅のちょうど中間辺りにあるらしく、徒歩で行くには微妙な距離で、バスで行っても少し歩くし、初めて訪れる地域の住宅街はややこしい。そのためケイさんに車で送ってもらうことになったのだ。
「次はユキトさんに車出してもらってねー」とケイさんは言うけれど、もし次回があるならバスで行き来してもいい。見覚えがある景色と地図アプリが揃えば大丈夫だろう。
駅から離れた住宅街の八階建てマンション。その七階に、末永さんの部屋はあった。
ドアを開けた末永さんは帰宅したばかりなのかスーツ姿で、呑気に「ユキトさん元気―?」と挨拶をしたケイさんをひと睨みしたあと、わたしを見下ろし苦笑した。
「変なことに巻き込んで悪いね、泉さん」
「いえ、全然……」
「泉さんなんて他人行儀な。キコちゃんでいいよ、ユキトさん」
マイペースなケイさんをもう一度睨んだ末永さんは「ここまで送ってくれてありがとう、帰りは俺が送るからケイはもう帰っていいぞ、香代乃によろしく」と棒読みで言って、追い払うように右手を二度振った。
ケイさんは特に気にする様子もなく、持っていた紙袋を末永さんに渡すと「キコちゃんまたねー」と元気に去って行った。
さて。ここからは末永さんとふたりきりである。
末永さんはぎこちなくわたしを部屋に招き入れ、わたしもぎこちなく従った。