片翼を君にあげる③
***

数日後ーー。

俺とジャナフが訪れたのは、都会から外れた静かな自然に囲まれた森の中に建つ、アッシュトゥーナ家の別荘だった。
あのクリスマスの事件以来塞ぎ込んでいるレノアを、事件現場である自宅から遠ざけてゆっくり療養させてやりたい、と言うヴィンセント様の気遣いで、彼女は今ここに居る。

そこには、最低限の使用人達と母親であるミネア様。あと、レノアの専属執事であるレベッカさんも一緒に住んでいるが、レノアは自分の為に用意された部屋からほとんど出てくる事はなく、使用人では部屋に近付く事はおろか部屋の中には絶対に入れず……ミネア様やレベッカさんでさえ、なかなか中に入る事は難しい状態らしい。

そんな状態から、ミネア様が直々に俺とジャナフをレノアの部屋の前まで案内してくれた。
向かう最中「よく来てくれたわね」と、ミネア様は微笑んでくれたけど、その表情には明らかに疲れが見えていて相当参っている様子だった。

レノアにも気付いてもらわなくてはいけない。
確かに、今1番辛く苦しいのはレノアだが、そんな彼女を見て心を痛めて心配している人が居るんだ、と言う事を……。
そして、ランの為にも前を向いて、これからという未来を生きていかなくてはいけない事をーー……。

ミネア様がある部屋の前で足を止めて、扉を見つめた。その揺れた瞳からも、この部屋の中にレノアが居るんだ、と言う事が分かった。
ミネア様は扉をコンコンッと軽くノックすると、優しい声で語り掛ける。

「レノアーノ、起きてる?
ツバサが会いに来てくれたわよ?開けてもいいかしら?」

部屋には鍵が掛かっているようだ。
けど、きっとミネア様は外からも開けられる鍵を持っていて、いざと言う時には強引に入る事も出来るのであろう。

けど、俺はそんな強引にはしたくなかった。
今日は眼帯を外して、天使の瞳を解放してここに来た。だから、感じたんだ。
ミネア様が語り掛け、俺の名前が出された瞬間、部屋の中に居るレノアが酷く動揺している感情の乱れが……。
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