片翼を君にあげる③
「いっつも難しい表情ばかりしていて疲れません?」
夢の配達人の隠れ家にある広場。花壇の端に腰を降ろして休んでいると、私にそう声を掛けてくる一人の少女がいた。
肩まで伸びたフワッとした茶髪を揺らして、大きな瞳に私を映しながら、少女は首を少し傾けて不思議そうにしている。
真っ白なワンピースと薄い桃色のカーディガンを羽織ったその少女は、7歳とは思えない程に大人びた口調をしていた。
いや、口調だけではない。すらっと長い手足に色白の肌。間違いなく将来は、すれ違えば誰もが振り返る美人になるだろう、と確信が持てる程に、少女は出逢った時から整った顔立ちだった。
「貴方程の方でも、白金バッジ昇格を懸けた戦いともなるとやはりお悩みなのかしら?
あ、そうだ。これを差し上げますわ!はいっ」
けれど、この時はやはり7歳の少女だった。
小さな手の平に乗せて差し出されたのは、「苺ミルク」と書かれた包装に包まれた飴玉。
「これを食べれば、一瞬で笑顔になれます!
ねっ?食べてみて下さいな!さぁ、さぁ!早く!」
「……。
……っ、……〜〜〜(甘ッ)!!」
「!?っ、そんな馬鹿な!
何故余計に渋い表情になるのですかっ……?!」
期待の眼差しに見つめられてつい口に運んでしまったその飴玉は、これまで口にした食べ物の中で1番と言う程に甘く……間違いなく私の中に深く刻み込まれた。
この時、私に飴玉を差し出した少女こそ、夢の配達人の最高責任者の御息女であるノゾミ様だった。
ノゾミ様は変わり者で、何故か隠れ家で私を見付けると決まってお声を掛けて下さった。
人と必要以上に接する事、特に子供を相手にする事など私は苦手だったが……。不思議とノゾミ様だけは平気だった。
「いつか必ず、私が貴方を笑顔にさせますわ!瞬空!」
念願の白金バッジを手にした時でさえ笑わなかった私を見て、ノゾミ様はそう言った。
いつも笑顔が溢れている明るい少女。
女の子らしい、と言う言葉がピッタリだった少女。
そんな彼女から笑顔が消えてしまうなんて、誰が予想出来ただろうか?