片翼を君にあげる③

夢の配達人に恨みを持つ人間に、ノゾミ様が(さら)われたーー……。

そう聞かされた瞬間、私は生まれて初めて我を忘れた。
任務をすっぽかし、主でもない、祖国の人間でも身内でもない……。そう、妻でもない、たった一人の少女を助ける事に、私は必死だった。

「っ、駄目です!瞬空(シュンクウ)ッ!!
そんな事をしたら、夢の配達人でいられなくなってしまいますッ……!!」

ノゾミ様が腕にしがみ付いて止めて下さらなければ、私は誘拐犯の命を間違いなく奪っていたであろう。

ノゾミ様は衣服を破られ、顔を打たれ、身体を殴られ……。最悪の事態は避けられたものの、心と身体に大きな傷を負っている筈だった。
そんな状況にも関わらず、私を止め、そして言った。

「っ、悔しい……ッ」

悔しい、と。
大きな目に、大粒の涙を溜めて噛み締めるようにして、言った。

「私ッ……強くなりたい!
男の人なんかに……っ、こんな奴等に良いようになんてされたくないッ……!!
自分で自分を護れるようにッ……強く、なりたいっ!!」

強くなりたい、と、言った。
泣きながらも、身体を震わせながらも、そう、言ったのだ。

その瞬間。
何故、ノゾミ様(この少女)が傍に居ても居心地が良かったのか、ようやく分かった気がした。
この子は今までの女子(おなご)とは違う、と……。
いや、今まで出逢った誰とも違う、その強い魂を感じていたからだった。

私が彼女に惹かれたのは、性別でもなければ、美しい見た目でもない。年齢も、関係ない。
この強く美しい魂を持つ、ノゾミ、と言う人物に惹かれたのだ。

「……ならば、私がお教えしましょう。
貴女がもう誰にも傷付けられる事がないよう、護るのではなく……私が、貴女を鍛えて差しあげましょう」

自然と目の前に(ひざまず)き、私は自らの王ではない人物に、そう誓っていた。
護られるのではなく、自らが強くなる事を望んだ彼女に……私は、恋をした。


無論、だからと言って当時まだ子供であった彼女に、私が訓練でも必要以上に触れる事はなかった。

けれど、会う度に……。
訓練するうちに目覚ましく成長していく彼女は、強くなると同時に、より美しくなっていった。
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