片翼を君にあげる③
熱が、高まるーー。
「嫌です……っ」
その声に。
温もりに。
感触に……。
ああ。もう、抗えない。
これまで、触れてはいけない、と抑えてきたものが込み上げてくる。
「私はっ……まだ、一緒に居たいッ。
急に今日までだなんて……そんな勝手な事は許しませーー……ッ」
ーー……気付いたら、
彼女の言葉を遮り、強く抱き締めて唇を重ねていた。
自分の中に、こんなにも男としての欲があるなんて……私は、初めて知った。
女性と口付けを交わす事も、身体を重ねる事も初めてではない。
けれどこの時の私は、まるで全てが初めてかのように彼女に溺れていた。
隠れ家の寮の自室に彼女を連れ込むと、汗を流す事もなく、布団を敷く事もせず……。そのまま床に二人で倒れ込み、衣服を脱ぎ捨て絡み合った。
「っ、瞬空……」
名前を呼ばれる声にすら欲情し。
絡め合う指、手の平からでさえ、ゾクリッと駆け巡る熱と快感。
触れ合う肌、繋ぎ合わせる部分は、あまりの熱さに蕩けてしまう感覚に陥った。
「ノゾミ……ッ」
「っ、……。初めて……。
ようやく、そう、呼んでくれましたわね……っ」
ノゾミーー。
そう、無意識にずっと呼びたかった名が口から溢れていた。
……
…………幸せ、だった。
求めて。
求められて。
求め合える事が、こんなにも幸福なものだったのだ、と……私はようやく知る事が出来た。
ヴァロン殿が引退し、夢の配達人としての道を絶っても尚、より幸せそうに輝いていた意味が……私にもやっと分かったのだ。
……
…………。
……けれど。
私とヴァロン殿では、決定的に違った。
私はノゾミを幸せに出来る立場ではなかったのだ。
一線を越えてしまい、「愛している」「妻になってほしい」とは決して口に出来ないこの関係は、すぐに幸せとは言い難いものに変わっていった。
それでも、会ってしまえばまるで磁石が自然と引き合うように求め合ってしまう。
「私達の関係に、愛の言葉も約束の言葉も必要ありません。
その代わり、一緒に居られるひと時だけは、私から目を逸らさないで……」
そんな彼女の言葉に甘えて、何度も、何度も……。私達は言えない想いの言葉の代わりに身体を重ね合った。