片翼を君にあげる③
***

夢の配達人の隠れ家、訓練場ーー。

円形の戦場。その中に居るのは、それぞれ戦いの準備をする瞬空(シュンクウ)さんとミライさん。
そして、戦場を囲む壁の外の観戦場に居るのは、俺、最高責任者(マスター)、ノゾミさん、そして、ミヅクさんとジャナフ。

瞬空(シュンクウ)さんとミライさんのピリピリとした緊張感が伝わって来て、訓練場に足を踏み入れてからは誰も何も話さない。
俺は、左目(天使の瞳)を眼帯で封印したまま、戦場に居る二人を見つめた。

正直、先見の能力(ちから)を使ってしまえば、俺にとってこの勝負の結果を知る事は簡単だった。
下剋上の決まり事(ルール)の中に、能力(ちから)を使ってはいけない、と言う規約がない以上、反則にはならない。

けど、俺は……能力(ちから)は使わない。

俺には、この二人が戦う事を決めた事に、何か理由があると思えてならなかった。
ミライさんと下剋上をする事を勝負内容に選んだ瞬空(シュンクウ)さんにも。その瞬空(シュンクウ)さんの申し出を受けたミライさんにも、それぞれ懸ける想いがあるように感じていたんだ。

俺は、その二人の想いを能力(ちから)で知るのではなく、自分自身で感じたいーー。

「……ツバサ君。この紙に勝つと思う方の名前を書いて下さい。
その後は二つ折りにして、この封筒にいれて、最高責任者(マスター)にお渡し下さい」

「分かりました」

俺に歩み寄ってきたノゾミさんは、そう説明すると紙とペンと封筒を差し出す。
俺は受け取ると、すぐに紙にペンを走らせた。

すでに答えは決まっていた。

そして、書いた紙を二つ折りにすると封筒に入れて、自分の足で最高責任者(マスター)の元へ行き、自らの手で手渡した。

「よろしくお願いします」

「確かに。預かりました」

封筒を受け取った最高責任者(マスター)は懐にしまうと、戦場にいる瞬空(シュンクウ)さんとミライさんの方を向いて言った。
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