片翼を君にあげる③

「こちらの準備は整いました。
瞬空(シュンクウ)、ミライ。そちらの準備はいかがですか?」

その問い掛けに、ミライさん片手を上げて「問題ありません」と答えた。
しかし、一方の瞬空(シュンクウ)さんは、戦場を囲む壁ギリギリまで歩んで来て最高責任者(マスター)に近付くと、頭を下げながら言った。

「一つ、最高責任者(マスター)にお願いがございます」

その言葉に、みんなが瞬空(シュンクウ)さんに注目した。
最高責任者(マスター)が「何ですか?」と問い掛けると、瞬空(シュンクウ)さんがゆっくりと口を開く。

「この勝負、私がミライ殿に勝ったら……。最高責任者(マスター)に大事なお話がございます。
聞いて、頂けますでしょうか?」

大事な話ーー。

俺には、その大事な話、の深い意味は分からなかった。
けど、瞬空(シュンクウ)さんがそう言った瞬間、ミライさんがチラッと視線を流して微かに笑った。そして、その視線の先に居たのはノゾミさん。
そのノゾミさんも、今まで見た事がない、驚いたような表情を浮かべていた。

何も知らない俺には、それが何を意味しているのか分からずにいた。
だから、気付けなかった。
大事な親友(ジャナフ)が、複雑な心境を抱えている事にも……、……。

「……分かりました。いいでしょう」

「ありがとうございます」

最高責任者(マスター)の言葉を聞いた瞬空(シュンクウ)さんはお礼を述べるともう一礼して、再び戦場の中央へと戻って行った。

強い想いを、感じるーー。

前回、俺と手を合わせてくれた際よりも、遥かに強い想いで瞬空(シュンクウ)さんが今回の下剋上に挑んでいる事が分かって……ほんの少し、悔しくなった。
俺では、瞬空(シュンクウ)さんをここまで本気にさせる事が出来なかった。
それは、俺がまだ瞬空(シュンクウ)さんやミライさんには遠く及ばないと言う証だから……。
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