片翼を君にあげる③
ひと回り以上歳の離れた兄ミライとは、正直そんなに想い出はなかった。
白金バッジであり、No. 1の夢の配達人である事は尊敬しているけれど、好きか嫌いかと問われたら、よく分からない。
兄は私に嘘ばかりついている気がしていた。
いや、私だけではなく、父にも母にも……。家族の前ですら、仮面を被っていた。
特に優しくされた記憶もなければ、喧嘩した記憶もない。
だから、好きか嫌いか、ではなく、普通。
それが、私にとっての兄という存在だった。
ーー……でも、今日。
私は初めて、本当の兄を見た気がした。
……
…………。
っ、……すごい。
目の前で繰り広げられる戦いに、私は息を呑んだ。
兄も、そして瞬空も。私が思っていたよりも、ずっとずっと遥かに強かった。
私との稽古の時は、半分の実力も出していなかったの?
と、問い正したくなる程の瞬空の疾く鋭い、重い斬撃。
そして、その斬撃を防ぎ、避け、ケタ外れの身体能力で反撃を繰り出す兄。
柔らかく、しなやかな身体と筋肉。そこから放たれる拳と蹴りの威力は絶大だ。
何よりも、気迫。
互いに絶対に負けられない、譲れない、と言う想いが痛いほどに伝わってきて、辺りの空気がビリビリと震えていた。
これが白金バッジ同士の……。
夢の配達人の頂点にいる者同士の戦いなのだ。
判定を下さなくてはいけない者としての立場があるのに、私はただただあまりのすごさに目を奪われ、まるでただの観客のように観入ってしまっていた。
すると、そんな私を更に驚かせるように、兄と瞬空は一旦攻撃の手を止め、離れて距離を取ると口を開いた。
「やるね、瞬空」
「ミライ殿も、さすがです」
「どうも。
でも、まだまだこんなものじゃないよ?」
「そうでなくては、困ります」
二人はそう会話を交わした後に、フッと微笑った。
その直後、二人は再び戦闘態勢に入ると、さっきよりも更に速度を上げて互いの間合いを詰める。
そして、更に激しい攻撃が始まった。