片翼を君にあげる③
もうやめてーー……。
そんな感情が、浮かんでしまった。
それは兄に対してなのか、瞬空に対してなのか、は分からない。
これ以上この二人の戦いを観ているのが辛かった私は、いっそこのまま瞬空が地面に膝を着き、勝負あり、と判断され、一刻も早く終わる事すら願ってしまっていた。
ーー……しかし、そう願った直後。
勘違いかも知れない。
が、瞬空と一瞬目が合った気がした。
すると、ギリッと歯を噛み締めた瞬空は首とそれを締めている服の間から手を抜くと、自らの腰元からある物を抜いた。
それは、鞘。普段曲剣を納めている鞘だった。
それを瞬空は自らの背後と首を締めている兄の間に勢い良く滑らせると、その先を兄の顎に直撃させ、鋭い一撃を打ち込んだのだ。
ドシャ……ッ!!!
と、凄まじい音が響き、顎に一撃を受けた兄が仰け反ると瞬空の拘束は外れた。
瞬空は首に巻き付いていた服を緩め剥がしながら距離を取り、肩を上下に動かしながら荒い呼吸を整える。
一方の兄も、仰け反ったものの倒れたり地面に膝を着いたりもせず、ヨロッとした足を整えてしっかり踏み留まると、口元から溢れ出た血を手の甲で拭いながらすぐに瞬空を見据えた。
静まり返り、二人の呼吸だけが響く戦場。
負けないーー。
二人の間には声も言葉もないのに、そう聴こえる。
負けられないーー。
二人の瞳が、互いに一歩も退かない事を物語っていた。
このままどちらかが命を落とすまで、終わらないのではないかーー……?
私の心にそんな疑問が浮かぶ。
そう思ったら、怖くなった。
昔自分が攫われて、痛ぶられ、殺されるかもしれないと思った時よりも、ずっとずっと……。
「ーー……ッ!!」
「!!っ、ノゾみん……?何処行くのっ?ノゾみんッ?!」
ミヅクの声が、背後から聞こえた。
私は、その場から逃げ出していたのだ。
……
…………。