片翼を君にあげる③
自分にとっても、二人は大切な人。
けれど私は、その二人に本当に好かれているのか自信がなかった。
ーー……いや、違う。
私は、愛を知るのが怖かったのだ。
愛される幸福を知ったら、自分が自分でなくなってしまう気がした。
強く在りたい、と願い、築き上げてきた今の自分がなくなってしまうような気がして怖かった。
「お兄ちゃん!助けて!!」
と、幼き日に泣き叫んだ自分に戻ってしまう。
「私を誰よりも愛して!!」
と、愛を強請るただの女になってしまう。
二人の愛に気付いてしまったら、ただの弱い女の子になってしまう。
それじゃ、私は駄目なのーー……。
「ーーいいんですよ、それで!」
「!!っ……、ジャナフ……くん?」
それでは駄目だ、と心が叫んだ私の手を握って、ジャナフ君が言った。
立ち上がったジャナフ君は、私の両手を自分の両手で包み込むと、瞳と瞳を合わせて伝えてくれる。
「大丈夫ですよ。以前も、言ったでしょう?
ノゾミさんは、とっても可愛い女の子です!!」
それは私にとって、不思議な呪文のようだった。
「愛されて、大切にされるべき女の子です。怖がる事なんて、何もない」
優しい魅力を持った、左右で色の違う虹彩異色症の瞳に見つめられて、ずっと縛られていた心が解放されていく。
「今、ミライさんと瞬空さんは、自分自身とノゾミさんへの想いで戦っています。
だから、ノゾミさんもその想いを受け止めて、応えてあげて下さい」
「っ……」
「貴女の素直な想いを、隠さず、しっかりと伝えて下さいっ!!」
ただの1人の女の子としての気持ちを曝け出していいのだ、と……。ジャナフ君は幼い日からしゃがみ込んで進めずにいた、私の背中を押してくれた。
私の中にずっと居た少女の私に気付いて、救い出してくれたーー。
「っ、……ジャナフ君。ありがとうっ」
私は微笑んで、一度手をギュッと握り返すと……。ジャナフ君から手を放して、大切な二人の元へ戻る為に訓練所の扉を開いた。
……
…………。
【次回更新は5月31日(金)を予定しております(^^)】