片翼を君にあげる③
「僕は、良い兄じゃなかった。
ノゾミからしたら嫌な奴で、大嫌いだと思うけど……。それでもやっぱり、僕は兄だから」
そう言葉にしたら、自然と笑みが溢れた。
「妹を泣かせる奴は、許せないんだ」
柄にも無い台詞を言って、瞬空を見つめた。
すると、瞬空も……。
「あの日……。
ノゾミが攫われた時、あの子はこう叫んでいた。『お兄ちゃん!お兄ちゃん!助けてっ……!!』と」
僕の知らなかった妹の想いを、僕を真っ直ぐに見つめて伝えてくれる。
そして……。
「ノゾミは、兄の事が大好きだ。
少し……。いや、かなり……妬けますな」
自らの本音も口にして、優しく笑みを浮かべた。
その表情からは確かに、遊びではなく妹を想う気持ちを感じ取る事が出来た。
「最初私に近付いてきたのも、おそらく貴殿に構ってもらえぬ寂しさ故。
歳上の存在に甘えたくて、兄に出来ぬ事を、言えぬ事を私で満たしたかったのでしょうな」
そう言う瞬空を、もはや「妻がありながらも妹を誑かす嫌な存在」と思う感情は薄れていた。
けどーー……。
「っ、瞬空ーー……ッ!!!!!」
僕達の方に向かって……。
いや、目の前の瞬空に向かって熱い声が投げかけられた。
「何やってますのっ!!貴方の力はこんなものじゃないでしょうっ?!
負けたら絶対にッ……っ、絶対に絶対に!許さないんだからッ!!!」
訓練所に響く声。
その声に。
勝負の最中なのに。
僕と瞬空は、同じ方向を……。戦場を囲む塀ギリギリまで来て、必死に、少女のように声援を送るノゾミの方を見た。
その、ノゾミの顔を真っ赤にしながら叫ぶ姿を見て僕と瞬空は「フッ」と笑うと、すぐにまた向かい合った。
「「妬ける」か、それはこっちの台詞だよ。
可愛い妹に免じて負けてあげたいけど……。悪いね、それは出来ない」
「手を抜かれては困ります。全力の貴殿に勝たねば、意味がない」
そして僕達は、同時にその場を駆け出した。
……
…………。