片翼を君にあげる③

「でもさ〜ツバサ。もう一つ大変な事があるんじゃない?」

「?……大変な事?」

蓮葉(レンハ)様の事だよ。"あの返事"、しっかりと考えないとね〜」

あの返事ーー。

そうだった。
ジャナフに言われて、俺の頭の中には別れ際に蓮葉(レンハ)に言われた事が鮮明によみがえってきた。

それは、アメフラシの儀式を終え、蓮葉(レンハ)蓮華(れんか)国に送り届けた際の事。
俺もすぐに帰還が決まっていたから、バタバタと慌ただしく馬車に乗ろうとした最中。
突然、蓮葉(レンハ)が「あ!」と声を上げ、「ツバサ!忘れ物じゃ!」なんて言うから、俺はすっかり油断していた。
その直後に胸ぐらを掴まれ、グイッと引き寄せられ……。なんと、左頬にキスされた。

「ふふっ、これでわしとレノアは同等じゃ!」

そして、驚き左頬を手で押さえる俺に、蓮葉(レンハ)が言った。

「言うておくが、わしは其方を婿にする事を諦めてはおらぬぞ?
瞬空(シュンクウ)に勝ち、レノアを救い、もっともっと良い男になってくれ!
その間に、わしも良き女になる。もっともっと自分を磨き、レノアよりも、どの女性よりも輝いてみせる!
……だから、その際はもう一度考えてくれ。わしの事を、女として見た、其方の返事がほしい」

真っ直ぐな瞳。
いつもの無邪気さの中に、女性の美しさを感じた表情に、俺はすぐに返事が出来なかった。
レノアよりも蓮葉(レンハ)を好きになる可能性がある、と言うよりは、きっと俺はもう一度見たかったんだ。
自分も目標を達成し、成長した時に、蓮葉(レンハ)もまたどのように変わっているのかを……。

「ーー……分かった。
全部終わったら、また会おう」

だから、俺はつい、そう返事をしてしまった。

「っ、約束じゃぞ!楽しみにしておるからな!」

俺の返事に蓮葉(レンハ)は嬉しそうに微笑って……。俺達は笑顔で別れた。
< 14 / 168 >

この作品をシェア

pagetop