片翼を君にあげる③
「でもさ〜ツバサ。もう一つ大変な事があるんじゃない?」
「?……大変な事?」
「蓮葉様の事だよ。"あの返事"、しっかりと考えないとね〜」
あの返事ーー。
そうだった。
ジャナフに言われて、俺の頭の中には別れ際に蓮葉に言われた事が鮮明によみがえってきた。
それは、アメフラシの儀式を終え、蓮葉を蓮華国に送り届けた際の事。
俺もすぐに帰還が決まっていたから、バタバタと慌ただしく馬車に乗ろうとした最中。
突然、蓮葉が「あ!」と声を上げ、「ツバサ!忘れ物じゃ!」なんて言うから、俺はすっかり油断していた。
その直後に胸ぐらを掴まれ、グイッと引き寄せられ……。なんと、左頬にキスされた。
「ふふっ、これでわしとレノアは同等じゃ!」
そして、驚き左頬を手で押さえる俺に、蓮葉が言った。
「言うておくが、わしは其方を婿にする事を諦めてはおらぬぞ?
瞬空に勝ち、レノアを救い、もっともっと良い男になってくれ!
その間に、わしも良き女になる。もっともっと自分を磨き、レノアよりも、どの女性よりも輝いてみせる!
……だから、その際はもう一度考えてくれ。わしの事を、女として見た、其方の返事がほしい」
真っ直ぐな瞳。
いつもの無邪気さの中に、女性の美しさを感じた表情に、俺はすぐに返事が出来なかった。
レノアよりも蓮葉を好きになる可能性がある、と言うよりは、きっと俺はもう一度見たかったんだ。
自分も目標を達成し、成長した時に、蓮葉もまたどのように変わっているのかを……。
「ーー……分かった。
全部終わったら、また会おう」
だから、俺はつい、そう返事をしてしまった。
「っ、約束じゃぞ!楽しみにしておるからな!」
俺の返事に蓮葉は嬉しそうに微笑って……。俺達は笑顔で別れた。