片翼を君にあげる③
ーー……けど。
「私には、全てを投げ出して其方を攫う事は出来ない。……出来ない、のだ」
それ以上、言葉が出なくなった。
俯いて、目を瞑った。
最低、と。
殴られても良かった。
でもノゾミは、最後まで本当に美しかった。
「ーーそれでこそ、瞬空ですわ!!」
フワッと、指輪のケースを握り締めていた手を両手で包み込まれる。
目を開けると、そこにあったのは……。ずっと見たかった、眩しい、愛らしい笑顔。
ノゾミが跪いていた私の前で、自らも両膝を着いて屈んでいた。私の手を包む両手をしっかり握り締めながら、祈るような姿で告げる。
「私、忘れない。これからも、残りの人生も、その先の未来も、きっと……。
"私達の想いは確かにここに在った"、と貴方が形にしてくれたから、もう大丈夫」
そんな彼女を目にして、
「もしも次に生まれ変わる事が出来たら、その時は必ず一緒になろう」
そんな、馬鹿な言葉が口から出かけて、私は飲み込んだ。
「瞬空。私はここで、この想いを胸に生きます。
貴方が好きになってくれた自分を……。ううん、貴方のおかげで好きになれた自分に誇りを持って、生きます!」
真っ直ぐに前を向いている彼女を、あるかも分からない未来や来世にまで縛ってはいけない。
だから私は、心の中で誓う。
『もしも生まれ変わる事が出来たなら、その時は何よりも其方を優先しよう。
目が醒めたら真っ先に、其方に逢いに行こう。
ノゾミ、其方だけの私になろう』
そう、心で誓いを立て、微笑った。
「それでこそ、其方だな。ノゾミ!」
ーー……ああ、ようやく。
ようやく、あの日の後悔をやり直せた。
私達は、二人で微笑み合う事が出来た。
今この時は、きっと今の私達に最高の時。
二人の最後の時間に相応しい、時だった。
私も忘れはしない。
強くてまっすぐな瞳も、眩しい笑顔も……。
いつか再び巡り逢える、その瞬間までーー。
……
…………。