片翼を君にあげる③
私は、瞬空のプロポーズを断った。
彼よりも、今の自分を……。夢の配達人の秘書として生きる道を選んだ。
瞬空の為じゃない。
彼の奥さんの事を想っての事じゃない。
ただ、私には耐えられないと思った。
彼に付いて蓮華国へ行く事も。
本妻に嫉妬の気持ちを持たずに居られる事も。
そこで、彼への愛だけで生きていける程、私は強くなかったのだ。
私は、自分が可愛かっただけ。
自らが受ける悲しみや辛さに耐える自信が、なかっただけ。
だから、私に涙を流す権利なんてない。
寂しくて泣く資格なんて、ないのだ……。
けど、瞬空が去った後の並木道のベンチで一人座り、私は俯いた顔をなかなか上げる事が出来ずに居た。
後悔しているのーー?
ーー……ううんっ、違う。そうじゃ、ない。
そうじゃない、っ……けどッ…………。
「ーー甘い物でも、食べに行きませんか?」
感傷に浸る私の頭上から、声が聞こえた。
失恋した女の心につけ込むナンパ男がよく居る事は、知っている。
でも私には、この声の主にそんなやましい感情が一切ない事が分かっていた。
「っ……ジャナフ、くんッ」
彼の声に導かれるようにようやく顔を上げられた私の瞳からは、その優しい笑顔が映った瞬間に涙が溢れていた。
どうしてだろう?止まらない。
さっきまで我慢出来ていた筈の涙が、とめどなく溢れてきてしまう。
こんな風に泣かれたら、きっと誰もが困るだろう。
そう分かっているのに、私は涙を止める事が出来なかった。
そんな私に、ジャナフ君は優しく微笑んだまま手を差し出してくれた。
私は泣きながら、その手を両手で握り締めて……また、泣いた。
誰よりも今、1番、貴方に会いたかったーー。
私は自然と、そう思っていた。
……
…………。